Under the roof

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【人生に影響を与えた1冊】木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

今週のお題「人生に影響を与えた1冊」

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか


とんでもない本。まず装丁がやばい。単行本だと辞書クラスのでかさ。黒い背景に上半身裸で腕組んでる男のモノクロ写真。でこのタイトル。【なぜ〜殺さなかったのか】って。インパクト強すぎて、本の外見だけで凄まじいパワーが秘められているように感じられる。

で、内容がもっとやばい。ただただ感じるのは、著者の執念。というより登場人物たちの辿る軌跡がもう常軌を逸しまくっている。とにかくいろんな人の念が込められてる。ただのノンフィクションじゃない。


まず、木村政彦って誰よ?って人が大多数だと思う。とりあえずウィキペディア見ると、「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」と表現されるくらいの柔道家で、史上最強と言われている柔道家。海外でグレイシー柔術の祖エリオ・グレイシーと戦い、柔道だけでなくプロレスラーとしても活躍した。

????なにこれ…なんだこの人と。なんでこんな凄い人なのに力道山と違って今の日本人は木村政彦の名前を知らないんだ?と。


で、読むともっと驚く。本当になんだこの人?と。人か?これ完全に「ぼくのかんがえたさいきょうの柔道家」だろ?

トップアスリートの練習と成長の記録、なんて生易しいものとして読めない。柔道マシーンと化した人間の、常軌を逸した柔道漬けの記録。

練習量が完全に頭おかしい。睡眠時間が無駄だからって3時間しか寝ない上に、寝てる間も睡眠学習してたって、もう完全に過労死レベル。普通ならオーバーワークで、そんな状態じゃ普通は練習や試合で良いパフォーマンスを発揮できるはずないんだが、そんな常識が当てはまらない。そういうことをやればやるほど強くなっていくんだから、もう普通の人間じゃないんだなあ、これ本当にノンフィクションなのかなあ…なんてことが頭に浮かぶ。

で、そんな若かりし木村に勝つ人もいるもんだから、これもうどうなってんだろうと。凄まじい人たちしか出てこない、この時代の特異さがありありと伝わってくる。


そんな、著者の膨大な取材量による、木村政彦とその周囲の人たちの記録、ではあるのだが、それだけで済まないのが本書の凄まじいところ。これは昭和という時代の深層が、あのころの日本の潮流がいかなるものだったか、いかに埋もれた真実が多いかということの暴露でもある。

能天気にイメージする「あのころはよかった」というノスタルジックな昭和は、ただの上っ面なのだ。木村政彦のような、闇に埋もれたとんでもない真実がたくさん眠っているのだ。

虚構を破壊し、昭和とはとんでもない時代だったという認識を再構築してくれる。本書はただの格闘技のノンフィクションの域を超えている。


魅力的で凄まじい登場人物による、とんでもなく壮大で、そして格闘技だからこその「熱さ」が伝わってくるノンフィクション。一生モノの読書体験になると思う。