Under the roof

三児の父が育児、家事、読書のこととか書きます

他人に親切であれ。R.J.パラシオ『ワンダー』

僕が本を読む理由はあくまで「暇つぶし」だ。好きな時に好きな場所で物語の世界に入ることが出来る。ノンフィクションを読んでいるときなんかは、本から知識を得ようと思って読むけど、フィクション、小説はあくまで楽しむもの、という認識で読んでいる。だが、小説でもたまに意識や考え方を変えてくれる本に出合うことがある。僕にとってはパウロ・コエーリョアルケミスト」や、ドストエフスキーカラマーゾフの兄弟」なんかがそんな小説の代表格なんだが、この「ワンダー」もそんな一冊だった。

ワンダー Wonder

ワンダー Wonder



主人公は、顔に奇形を持つ少年。その障害のために、幼少期より自宅と病院を行ったり来たりの生活で、狭い世界の中で生きてきた少年が、初めて学校に通い始めるストーリー。
顔面以外は健常者と変わらない彼が通い始めるのは普通の学校のため、降りかかるいじめ、生活圏が広がることにより感じる生きにくさ、つらい経験をして成長していく彼自身の、日記や独白形式で進むストーリーと、その周囲の家族や友人へ視点が映り、その人物が主人公を取り巻く環境と自分自身について語る形で話は進む。

困難を乗り越える、成長を題材にした話なのだが、本書のキモは周囲の人物の視点も描かれ、その全員がそれぞれ成長するところだ。
いじめられっ子の肩を持つと、その肩を持った奴もいじめられるというのは当たり前に起きること。主人公を中心に、否応なしに降りかかる困難に対し、それぞれの登場人物がそれぞれの考えで乗り越えていく。
主人公の味方は、ただ純粋にいい奴だから主人公の味方なわけではなく、それぞれ主人公と自分を含む環境に対する葛藤、苦悩を感じていることが伝わる。主人公と同じ障害を持たない読み手としては、主人公以外の立場にこそ自己を投影しやすい。

本書は児童書らしいので、主人公と、年齢の近い友人たちの視点でストーリーは進んでいくが、大人としてはどうしても主人公のパパ、ママに視点が行ってしまう。いかなる場合でも主人公を優しく包み込むママと、重要な局面では必ず力になってくれるパパ。あまりにも理想的すぎる両親の像だが、自分もこうなりたいと思わせてくれる魅力がたっぷりだ。

『正しいことをするか、親切なことをするか、 どちらかを選ぶときには、親切を選べ。』

本書の冒頭に登場する「格言」なんだが、この一文に本書の魅力が集約されているように感じる。
他人に優しく、親切であれ。そう成長するための、最高の一冊。