Under the roof

三児の父が育児、家事、読書のこととか書きます

大錬金の衝撃◆上田岳弘『太陽・惑星』

太陽・惑星

太陽・惑星


これはすごかった。先に「私の恋人」を読んで、オリジナリティあふれるプロットに舌を巻いたが、その前作にあたるこっちがあってこその「私の恋人」なのかと腑に落ちた。

これがデビュー作っていうのもすごい。どうなってんだこの人の頭の中。

中編くらいの長さの小説「太陽」と「惑星」それぞれが収録されているんだが、どっちも濃密。

◆太陽

「厳密にいえば、太陽は燃えているわけではない。」
こんな書き出しから始まり、まずは天文学としての太陽の話がされる。原子核同士の融合の話に始まり、最終的には恒星の中心に鉄ができ、太陽より質量の大きな恒星なら「金」が生まれる…そんな太陽の話から、唐突に大学教授が週2回女を買っている話が始まる。
大学教授が買ったデリヘル嬢、アフリカで赤ちゃん工場の経営、つまり人身売買をしている、とてつもなくIQの高い男、そしてその男の売った赤ちゃんであり、その男の子孫たち。ミクロな点が交錯し、それによって生まれる個々の思惑が俯瞰された第三者の視点で語られる。

様々な人物の様々な思惑が交錯して話は進むが、その進み方がとても奇妙。どんな人物で、どんな過去を背負っていて、さらには将来どんな人物になる…そんな風に、時間軸を取っ払った形で各々のバックグラウンドストーリーが展開し、そこでさらに時折挟まれる太陽と錬金術の話。
なんだこれ…何を、何処から説明したいのかが全然わからない…そう思いながら読んでいると、突然9代先の子孫が人類の第二形態となっている話に変わる。

第一形態は今の我々と同じ。その9代先である第二形態の人類は、個々の内面となる部分を共有しており、さらにはすべての感情をパラメーターとしてコントロールできる。ものすごく楽しいこともものすごくつらいことも操作して経験できるのだ。一応「個」は存在するんだが、当然みんな不死。最高の快感も最低の悲しみも簡単に経験できるので、人類は皆退屈しきっているが、自殺は禁止されている。ただし、あらゆる感情はチェックポイントとなっていて、すべてを経験した後なら自殺してもいいことになっている。つまり基本死なないけど、一通りすべてを経験し終えたならやることないから死んでもいいよ。そんな姿が人類の第二形態だ。
第一形態から進化したのに本当にそれでいいのかと突っ込みたくなるが、その第二形態の不条理さと第一形態の頃のほうがよかったんじゃないのと感じるのもひとつのチェックポイントになっている。第一形態のままならすべてを経験できずにいずれ死ぬ。それならすべてを経験できてから死ねる第二形態のほうが結局合理的だから。

はいはいはい、わかるようでわからないよ…もう何この話…なんて思っていると、先述のとてつもなくIQの高い男の子孫、田山ミシェルという人物がそんな現状にさらなる尖鋭なアイディアを持ちかける。こんな退屈なチェックポイントをこなす人生を歩むのではなく、今までの人類が誰もなしえなかったことをしよう。
具体的には、今までにない量の「金」をつくってみようとメディアに持ち掛ける。太陽にとんでもない質量の核融合をさせ、太陽を丸ごと金にする。ただ、その過程で人類は焼き尽くされ全滅する。そんなアイディアだ。
最早ぶっ飛びすぎてて訳が分からない。太陽全部を金にしよう!でも人類滅亡!そんな狂気が、第二形態の人類の間では最高のアイディアともてはやされ、一大ムーヴメントを巻き起こしたまま実行されていくラスト。
ああ、完全にネタバレしちゃったけど…でもそこに至るまでのプロセスが綿密で引きずり込まれていき、なんかそんな第二形態の人類の総意も納得いくかもな…と思わせて一気に破滅。すげえ。

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長くなったので、「惑星」の感想は明日更新します。