Under the roof

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【書評】上田岳弘『異郷の友人』

 

異郷の友人

異郷の友人

 

 

デビュー作『太陽・惑星』が衝撃的すぎた上田岳弘さんの3作目。今回もやはり、上田節的な「神の視点」で物語は進む。

 

『太陽・惑星』や『私の恋人』に比べると、ストーリーの規模は少しミニマムになったように感じる。というか過去作品に比べるとかなりキャッチ―になっているので、『太陽・惑星』のようなとっつきにくさはない。ポップさとミステリー要素も加わって、正直今までのようなプロットのすさまじさに飲み込まれて圧倒されるような感覚はない。


何度も転生を繰り返し、過去には偉人として歴史に名を遺したこともある主人公。すべての前世の記憶と、現世を生きている本人の記憶もすべて持ち続ける上に、なぜか同時期に海外で生活をしている天才ハッカーと淡路島にいる新興宗教の教祖の記憶まで流れ込んでくる。設定だけで強烈。

 

天才ハッカーが組織から抜けるための最終ミッション、なぜか予知めいた能力を持ち信者3万人を擁するという掴みどころのない謎の教祖とその周囲の人間たち。てんでんバラバラの場所と文化のもとに生きる者たちが、神の視点を持つ主人公のもとへ収束するようにして物語は進んでいく。突っ走るような速さでさまざまな視点を介しながら展開していく様は、壮大さから一歩引いて個人レベルの物語を繋げていっても面白いものを出せるんだぜ、と上田作品の新たな面を見せつけられた。

 

クライマックスは、何だか楽しかった旅が終わるような寂しさ。『異郷の友人』というタイトルは、別に何か共通の趣味があるでもなく集められた学校のクラスメートのような感覚から来たものなのかな、なんて感じたりした。気が合うやつがいれば、何考えているかわからないやつもいる。そんな関係でも、なんとなく終わってしまうのは寂しいものだ。

 

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