Under the roof

三児の父が育児、家事、読書のこととか書きます

【書評】不安で仕方なくなる短編集『ウインドアイ』

 

ウインドアイ (新潮クレスト・ブックス)

ウインドアイ (新潮クレスト・ブックス)

 

 気持ち悪さばかり残る短編集。ただし、グロとかではない。

 

仕事で、たまに『うっかりミス』をする。そういうミスは、確認不足だったり、思い込みで誤った処理をしたりで、防げるケアレスミスがほとんどだ。

 

ミスをした後で、自分はなんであの時よく確認しなかったんだろう、何でこんな簡単なことに気付かなかったんだろう、と考えて自己嫌悪に陥る。
本書の短編を読んでいて感じるのは、そういった類の気持ち悪さ、居心地の悪さだ。

 

例えば表題作の『ウインドアイ』は、自分の住んでいる家の窓の数が「外から数えた時と中から数えた時で1枚違う」といういかにもホラーっぽい、未知の恐怖をあおる感じで始まる。


が、物語の後半では、この窓に触れたせいで「いたはずの妹の存在がまるっきり消えてしまう」という、全く別の様相へと変わる。自分の中では確かに妹と過ごした記憶があるのに、母や周囲の人たちからは妹が存在していた事実がまるっきり消え失せてしまうのだ。

 

「妹なんて最初からいなかった、主人公が作り上げた幻想だった、つまり主人公には何らかの精神疾患があった」とすれば簡単に片付く問題なんだが、本書から感じるのは少し違う不気味さ。


冒頭触れたケアレスミスをした自分自身への疑いというか、何でこんなつらい結果を迎えてしまったんだというやるせなさを感じる。

 

ポイントは、「死んでいた」「気が狂った」といったはっきりとしたオチがあるわけではなく、「自分は狂っているかもしれない…?」を受け入れながら生きていくしかないという点だ。それでも、正常を「装って」生きていくしかない。世界と自分とのズレは、もっと大きくなるかもしれないという不安を抱えたまま、生きていくしかない。

 

覚めない悪夢をずっと見させられるような、気持ち悪さの残る短編集だった。一編ごとがかなり短いので、面白そうと感じる書き出しの短編だけ読むのもお勧め。きっと不安になる。