Under the roof

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【書評】ブラックスワンを乗り越えて、反脆くなれ!『反脆弱性ーー不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』

 

反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

  • 作者: ナシーム・ニコラス・タレブ,望月衛,千葉敏生
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2017/06/22
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
 
反脆弱性[下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

反脆弱性[下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

  • 作者: ナシーム・ニコラス・タレブ,望月衛,千葉敏生
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2017/06/22
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
 

 

著者ナシーム・ニコラス・タレブの本は『まぐれ』『ブラックスワン』と両方読んできて、どちらも強烈に記憶に残る面白さだった。


そんなタレブの最新作。『ブラックスワン』では「ありえないことは起こり得る」ということを様々な視点からひとつひとつ塗りつぶすようにして書き連ねていたが、本書でもそのスタイルは踏襲されている。だからこそ面白い。

 

本書のタイトルでもある『反脆弱性』とは、脆弱の反対語として著者が生み出した言葉だ。


普通、脆弱、つまり「打たれ弱い」の反対語は「頑健」だと思われるが、そうではなくむしろ「打たれることにより強くなる」ものがあるべきだ、ということで「反脆弱性」という言葉を作り出し、本書の中心的な概念として用いている。

 

脆弱(打たれ弱い)⇔頑健(打たれても変わらない)

ではなく

脆弱(打たれ弱い)⇔反脆弱(打たれて、より強くなる)ものというわけだ。

 

例えば反脆い(反脆弱性のある)ものといえば、人間の身体がある。人間の骨は、一時的なストレス(負荷)がかかれば密度が高くなる。打たれれば強くなるものの好例だ。


インフルエンザの予防接種はインフルエンザウイルスを用いて作ったワクチンを体に注射することで免疫力を高める。あえて病気のもとを少量体に取り込むことで、病気への耐性を高めるわけだ。

 

ここで重要なのが、これら反脆弱性を高める行為にはある程度のストレスが必要となることだ。負荷を与えなければ身体は丈夫にならないし、除菌や殺菌をしすぎる潔癖症の人ほど病気に弱かったりする。これでは、「交通事故にあった」や「インフルエンザが大流行した」などの『ブラックスワン』的な出来事に脆くなってしまう。

 

そう、本書『反脆弱性』は、前著『ブラックスワン』と地続きになった、ブラックスワンに見舞われたときにどうすべきかの回答ともいえる。起きるはずのないと思われていたブラックスワンは、ある日突然訪れる。


今までの経済学であれば、「いかにブラックスワンを予測して、それに対処するか」というのが基本スタンスであったのだが、タレブは全く違う。ありえないと思っていたことが起こることがブラックスワンなのだから、起きる可能性を予測するのは無意味だ。
ブラックスワンを予測するのではなく、ブラックスワンに耐えられる反脆弱性を見につけるべきなのだ。

 

本書の筋をまとめれば、「ブラックスワンに耐えるための反脆弱性について」一本になるのだが、これを生物、ビジネス、政治、医療、金融と、様々なジャンルにおいて「我々が思い込んでいたもの」をぶち壊して新たな視点を与えてくれる。


例えば、年収400ドルで安定している銀行家で、出世や社会保障なども充実した男性と、同じく年収400ドルだがその日の乗客数等で収入にバラつきがあり、社会保障などはあまり充実していないタクシー運転手の男性とでは、後者の方がより反脆いといえる。一見すると我々は銀行家のほうが恵まれた環境にいるように映るが、金融危機や世界的な不景気等により銀行家の方は予測し得ない無収入状態に陥った際、そこから「以前と同じレベルかそれ以上にまで状況を回復する」のは難しい。ブラックスワン的な事象が発生した時には、所謂手に職があり潰しの効く職業の方が反脆い存在と言えるのだ。

 

とにかく長々と多様なジャンルにおいて「既成概念」とそれをぶち壊す「反脆い視点」での著述は面白くて飽きが来ない。自分が抱いていた安定や理想はいかにブラックスワン的な出来事に弱く、反脆い生き方をするためには何が必要か。見えていた世界が変わる感覚だ。