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【書評】最悪へと突っ走った事故事例たち『大惨事と情報隠蔽』

 

大惨事と情報隠蔽: 原発事故、大規模リコールから金融崩壊まで

大惨事と情報隠蔽: 原発事故、大規模リコールから金融崩壊まで

 

 

不謹慎な言い方だが、とても面白かった。

 

本書は、原発事故、原油流出、金融危機、大規模リコール…リアルタイムで目にしたものや、過去の大惨事として現代史に残っているものなど、一級の事故事例について詳細に記載された、ボリューム満点のノンフィクション。どの事例を読んでも面白く、その酷すぎる経過が手に取るようにわかる。

 

本書の凄さは、どの事故も最悪へと突っ走ってしまうところ。それはつまり、『情報隠蔽』をしたことによって"防ぐことができたはず"の事故を引き起こした・悪化させてしまったということでもある。

 

例えば、スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故。スペースシャトルと言えば日本人宇宙飛行士も多数搭乗した、20世紀末から21世紀初頭にかけてNASAが行った宇宙開発事業の中心事項であった。年間に何度も打ち上げられ、宇宙空間からの中継映像をテレビで放送することも多く、我々にとっては『宇宙飛行士=スペースシャトル』というイメージがあると言ってもいいだろう。

 

だが、このスペースシャトル、NASAでの開発段階での運用計画は『年間24回程度の打ち上げ』というのを1980年代から予定していたらしい。いやいや、いくらアメリカの国家レベルのプロジェクトでも、そんなに宇宙って頻繁に行けるものではないだろう。

実際、この当時の宇宙開発技術では年数回の打ち上げが限度で、計画よりも大幅に下回る回数しかスペースシャトルは運用できていない。打ち上げの予算、宇宙飛行士の養成、打ち上げ環境の整備等、おいそれとポンポン飛ばせるものではないのは明らかだ。

だが、時代は冷戦末期、宇宙開発において他国の後塵を拝するわけにいかないアメリカは、無謀な打ち上げ計画を策定し続ける。そして、実際に打ち上げをするためにも、スペースシャトルの部品メーカーから提供されている運用基準情報を「自分たちにとって都合のよいように」改ざんして運用するようにもなっていく。

結果、打ち上げにはある程度温かい気温がないと破損の恐れのある部品があるにもかかわらず、1月の寒冷下で打ち上げを行った結果チャレンジャー号の爆発事故は起きた。

 

NASAの現場技術者は、部品メーカー等から提供されていた情報によってスペースシャトルの事故を起こす可能性は100分の1程度あると考えていたが、管理部門にとっては事故の可能性は10万分の1程度と見積もっていたらしいから驚きだ。100回打ち上げたら1回事故を起こすかもと考える人と、300年間毎日打ち上げても事故が1回起こるかどうかと考えている人が同じ組織内にいる。

どう考えても管理部門はスペースシャトルの打ち上げを急ぐあまり、自分たちにとって都合のいい認識をでっち上げていたわけだ。これでは適正なリスク管理などできるはずがない。

 

本書に掲載されているすべての大惨事に言えるのは、おそらく自己なんて起こらないという「認識の甘さ」、自分たちは間違っていないという「傲慢さ」、そして実際問題があると発表することによって起こるかもしれない「パニックへの恐怖」などが重なることにより、適正なリスク管理ができずに情報隠蔽へと繋がっていくということだ。

 

これは国家レベルの大惨事だけでなく、当然自分たちの仕事上のリスクマネジメントにも当てはまる。

本書の素晴らしい点は、そういった情報隠蔽による大惨事を回避するための教訓や手法を第三章で深く掘り下げてくれている点だ。どうすればこういった事故を防げるのか、逆にどのような環境が情報隠蔽を引き起こしやすいのか。プロジェクト管理などのマネージメントを任される立場の人にとっては、事故防止のためのテキストマニュアルとしても非常に有用な一冊と言えるだろう。

 

もちろん、単純に読み物としても面白いので、歴史に残る大惨事から学ぶノンフィクションとしても一読の価値があった。