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【書評】強いものが生き残るのではない、生き残ったものが強いのだ『たいへんな生きもの:問題を解決するとてつもない進化』

 

たいへんな生きもの: 問題を解決するとてつもない進化

たいへんな生きもの: 問題を解決するとてつもない進化

 

 

現在も本屋で平積みされて売れているらしい『ざんねんな生き物事典』の二番煎じかなと思ったけど、これはこれで毛色が違った。ユーモアの溢れっぷりは似たようなものだが、こっちはもっとブラックなユーモアだ。

 

何せ第1章が「何がなんでもセックスしなくちゃ」だ。

まあ、動物の本だから『ざんねんな生き物事典』のメインターゲットであろう小学生に見せても問題ないかもしれないが…とちょっと考えたけど、読めばすぐに結構エグイ内容が書かれているのを目にするので、やっぱり推奨年齢はもう少し上だ。中学生ならたぶん大丈夫。かなり茶化すだろうけど。

 

最初に登場する「アンテキヌス」というオーストラリア等に生息するネズミみたいな小動物は、メスが発情期を迎えると、オスは不眠不休で多数のメスとぶっ続けで交尾を行う。

文字通り休憩なしでぶっ続けで交尾し続けるため、オスは次第に疲弊し、毛が抜け、免疫が崩壊して、目も見えなくなり、体がボロボロになって死に至る。子孫を残すための交尾が壮絶すぎて死に至るわけだ。「自己の遺伝子を残したい」という生物としての本能に忠実ともいえるが、もう少しいい塩梅にできなかったものか。

 

こういった人間からすればめちゃくちゃとも思える生態が存在している理由は、結局のところあのシステムのせいである。それはチャールズ・ダーウィンの言う「自然選択」のことだ。

 

生きものは食べ物と水と住処を、ほかの種や同種と争わなければならない。遺伝子の伝わり方の違いや、DNAの複製ミスにより誕生する様々な違いを持った個体のうち、結果的に生き残ったものたちは「自然選択」によるものだ。

アンテキヌスのぶっ続けで交尾しまくる習性も、アンテキヌスたち自身がそうなりたかったわけではなく、自然選択で生き残っていった結果でしかない。なんだか、ベッケンバウアーの名言「強いものが勝つのではない、買ったものが強いのだ」を思いだす。

 

だからこそ、どうやってそうなったのという不可思議な生きものたちも存在しているわけだ。寄生したアリをゾンビ化して操ったうえ、最終的に首を切断して中身を食べつくして這い出てくるハエ、垂らした糸を投げ縄のように振り回して獲物を捕まえるクモ、体液を吸い尽した獲物の死骸を背中にしょって歩き回るサシガメ、すべて「どういう経緯でそこに行きついた?」って言いたくなる生態だが、結果的に彼らは生き残り、今も繁栄している。それは自然選択によるもので、生き残るのに有利だったからだ。

 

自然という壮大な実験場で生まれた、想像もしないような変わった生きものたち。そんなやつらの、一見するとたいへんな生態を、存分に堪能できる一冊だった。