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【書評】関野吉晴ファン必見『カレーライスを一から作る』

 

カレーライスを一から作る: 関野吉晴ゼミ (ポプラ社ノンフィクション―生きかた)

カレーライスを一から作る: 関野吉晴ゼミ (ポプラ社ノンフィクション―生きかた)

 

 

タイトル通り、武蔵野美術大学教授の関野吉晴氏が、自らのゼミで学生たちと一緒に、1年間かけて「カレーライスを一から作る」軌跡がまとめられた本だ。

 

まとめサイトっぽく言えば、「TOKIOがカレーを作ったら」かな。米も、野菜も、肉も、カレールーではなくスパイスも、そして、食器も自分たちで作る。TOKIOなら簡単にやってのけそうではある。

 

関野吉晴さんと言えば、僕にとってはもちろん『グレートジャーニー』だ。放送してたのは、中学生の頃だったかな…。

確かフジテレビで不定期に特番放送されていた番組で、医師であり探検家でもある関野さんが、アフリカから人類が世界中に広がっていった旅路を辿る…みたいな番組内容だったと思う。

アマゾンやアンデスの原住民たちと暮らしを共にしながら世界中を旅していくのが面白くて、放送予告があるたびに楽しみにしていた記憶がある。もう20年も前なのか…としみじみ感じてしまった。

そんな関野吉晴さんが、自らのゼミでカレーライスを一から作る。まあ、お米と野菜はなんとなくわかる。ルーにはターメリックや唐辛子などのスパイスを育てる。

で、肉をどうするのか。当然、肉になる家畜を育てることになる。

 

ビーフカレーが食べたいとなったら、自分たちで牛を育てて…となるのだが、今回ゼミの学生たちが作ると決めたのはなんと『ダチョウカレー』だった。ダチョウの雛か卵を貰ってきて、育てて肉にする。なんか学生特有のその場のノリで決めた感があって、「うわぁ…普通にブロイラーにしとけよ…」と思ってしまったが、ダチョウ肉自体はクセもそんなになくて食べやすいらしい。

 

ちなみに、日本で4本足の動物を殺して肉にするには免許が必要で、屠殺場にお願いしなければならないのだが、2本足の動物、つまりニワトリやダチョウなら自分たちで殺して肉にしても大丈夫らしい。「あ、でも人間は2本足だけど殺しちゃだめですね、ハハハ」という、グレートジャーニー視聴者なら「関野さんぽいな~」と感じる全然面白くないジョークもぶっこまれる。こういうの好き。

 

で、ダチョウなんて大学で育てられんのかな…という読者側の一抹の不安を残しつつ、それぞれの食材作りへと進む。

 

大学のこういう余興っぽいものあるあるで、最初はたくさんの学生が参加していたのだが、面倒くさい畑の草刈りなどの場面になると露骨に人数が減り、関野さんと学生ひとりなんて場面もある。こういうまとまりのないグダグダ感もリアリティあって面白い。

 

序盤の畑の場面でこれだけグダグダになれば、当然育てた動物を殺して肉にする、なんてできるのかという懸念が読んでいるうちに浮かんでくる。

動物の飼育にはたくさんの紆余曲折があるのだが、それでも飼育担当が「かわいい」とか「愛着がわく」みたいな発言をし始めて「大丈夫かよ…」と感じずにはいられなくなる。

 

で、案の定カレーを作るために殺す日が迫ってくると、やっぱりゼミ内で意見が分かれてしまう。

まだ成長途中なんだから今殺すべきじゃない、もう少し生をまっとうさせるべきじゃないか、みたいな意見が出るようになり、やっぱり情が移っちゃったじゃん…と予想通りの展開。だけどこれはこれでとても面白い。当事者としてはそうなるよなと。

 

当たり前に食べているものにも、これだけのプロセスが含まれていること。しかも、面倒くさい草刈り、生き物を殺して肉にする、カレールーなら簡単なのに一から作るとたくさんのスパイスを揃えなければならない…など、想像するのはたやすいが、実際自分が当事者になると正直そこまでやってられないよ…ってことを、ガチでやってみたからこそ見えてくることもある。

 

くだけた文章で読みやすくて、小学校高学年くらいになったら読めると思うので、子どもに読ませる本としてもおススメ。こういう経験をしてみたい、将来こういうことを学べる学校に行ってみたい、といったきっかけ作りにもなるかもしれない。

 

プラス、僕はグレートジャーニー時代から関野さんファンなので、「草刈りの時に鎌を忘れてきちゃう」「ダチョウのことを何故か毎回『ラクダ』と言い間違える」といった「関野さんそういうことやりそう~」なエピソードが随所に見られて面白かった。関野さんファン必見です。