『紙の動物園』『母の記憶に』の短編集、そして様々な中国人作家の作品を自身が精選したアンソロジー『折りたたみ北京』と、関わった作品すべてが面白かったケン・リュウの短編集第3弾。
で、もちろんこれも期待通りの面白さだった。
前2作まででは、心の琴線に触れるような泣ける話こそがケン・リュウの真骨頂だと思っていたんだが、本書収録作品はかなりバラエティに富んでいて、今までのケン・リュウ作品をいい意味で裏切ってくれた。
冒頭の3作『生まれ変わり』『介護士』『ランニング・シューズ』はどれも重めの心理描写で「ああ、ケン・リュウやっぱり凄いね…」って感じで読み始めたんだが、その次の『化学調味料ゴーレム』で「こんな作品も書けるのかよ!」と、その振り幅の激しさに驚いてしまった。
『ホモ・フローレシエンシス』や『悪疫』のような、社会派かつブラックユーモアを含んだ作品のあれば、『神々は鎖に繋がれてはいない』『神々は殺されはしない』『神々は犬死にはしない』の三部作のような日常からのカタストロフィを描くTHE・SFな作品まで、本当にどれから読んでも飽きが来ない。
感動もの、ハードもの、ファーストコンタクトもの、みたいにSFらしいパターンを当てはめられるんだが、そこにケン・リュウらしさのエッセンスが加わって作品一つ一つの深さが感じられる。
解説を読むと、今作は最新の短編だけでなく、前二作に収録できなかった「多少のわかりにくさがある作品」を収録したらしい。だからこそのこの振れ幅なんだろう。
ただ、1作目から追っているケン・リュウ好きならば、本書のどの作品を読んでもそこに著者らしさを感じられるだろう。
今後も作品をずっと追っていきたいと思える、素晴らしい短編集だった。