古生物にはロマンが詰まっている。
古生物研究というのは、新たな発見によってガラッと変わることがある研究分野だ。
最近ではティラノサウルスにも羽毛があった、ウロコがあったという研究により、ジュラシックパークなどで見慣れた、「一般的なティラノサウルスの」復元イメージと、羽毛とウロコありの「最新のティラノサウルス」の復元イメージが全く違うというのがネットニュースなどでも話題になっていた。
そんな、今の古生物学の面白さをうまくまとめてくれているのが本書である。
新たな発見で姿が変わった古生物として代表的なのが、僕も大好きで本書にももちろん掲載されている「ハルキゲニア」だ。
僕はカンブリアエクスプロージョンの古生物たちが大好きで、アノマロカリス(これも本書掲載)やオパビニアやオドントクリフスあたりを見るとワクワクが止まらなくなるんだが、その中でも特に好きなのがハルキゲニアで、そのエピソードの豊かさも大好きだ。
初めて見たのは僕にとっての古生物バイブルとも言うべき、スティーブン・ジェイ・グールド著の『ワンダフル・ライフ』で、この本ではまだ上下も前後も逆のイラストが掲載されている。
上下も前後も逆。
そう、つまりこのハルキゲニアは、発見当初はトゲトゲした脚、背中に触手、丸い頭という復元図だったものが、その後の研究により、トゲトゲが背中にあり、触手だと思われていたものが脚で、丸い頭だと思われていたものは肛門から出た内容物だったため、実際は前後も逆だったという、たった数十年の研究で全く見た目が違う復元図になるという変わった経緯を持つ古生物なのである。
「ハルキゲニア」という名前自体が「幻惑するもの」という意味らしく、名付けたあとも研究者たちはずっと幻惑され続けていたわけだ。ただ、上下と前後が逆だろうとハルキゲニアの奇妙さは失われておらず、そういった研究経緯が魅力を高めているようにも思われる。
古生物における「名付けのルール」についても本書は詳しく触れており、例えば昔の恐竜図鑑にはほぼ間違いなく掲載されていた「ブロントサウルス」について。
現在、「ブロントサウルス」の呼び名は「アパトサウルス」に変更されているのだが、これは「別種だと思われていたものが後の研究により同一種だったと判明した場合、先につけられていた名前が優先される」というルールがあるため、ブロントサウルスはなかったことにされてすべてアパトサウルスに統一されたという経緯があるためだ。
こういった一般には知られていないルールや研究経緯なども本書のポイントの一つであり、カンブリア紀に恐竜に氷河期にとそのカバー範囲も広いので、興味のある分野だけ読んでそこをほかの本で掘り下げていくという読み方もできる。
太古の昔にこの地球に存在していた奇妙な古生物たちにロマンを感じられるなら、是非手に取っていただきたい一冊だ。