Under the roof

三児の父が育児、家事、読書のこととか書きます

【書評】架空の都市の架空の歴史の物語集『方形の円』

 

方形の円 (偽説・都市生成論) (海外文学セレクション)

方形の円 (偽説・都市生成論) (海外文学セレクション)

 

ルーマニア人作家による、架空の都市について記述した短編集。小説というよりは各都市についてのごく短い歴史解説文といった感じ。

架空のものについての解説といえば、スタニスワフ・レム『完全な真空』を思い起こす。あれは架空の書物についての書評集で、あまりにも奇抜な架空の本を論理的に評するもんだから「この原著を読みたいわ」と思わせる、類を見ない感じの興奮を得られる素晴らしいSF古典といえる。文庫化されていないが、SF好きならハードカバーを買う価値のある一冊だと思う。

本書は完全な真空のような風刺や強烈な知識の洪水はないが、淡々とした描写が読み手の想像力を広げる余地を残してくれている。以前読んだ『奇妙な孤島の物語』に近い。あれは実在する島の歴史や逸話についてで、島の地図も描かれていた。

本書は都市の物語もすべてフィクションのため、骨組み以外はすべて読者の想像で補完できる。逆に詳細まで描ききることなく、でたらめにページをめくり、読んだ都市について想像を巡らし、すぐに忘れてしまうくらいでいいと感じた。また、次に読んだときに、前回とは違った都市を思い描くことができる。

装丁が美しくて、タイトルも矛盾しててかっこいい。いつパラパラめくっても新鮮に読めるので、本棚にあるととても映える一冊だと感じた。