Under the roof

三児の父が育児、家事、読書のこととか書きます

【人生に影響を与えた1冊】カフカ短編集

今週のお題「人生に影響を与えた1冊」

大学時代、カフカにどっぷりハマって、卒業旅行でチェコに行った。

カフカ短篇集 (岩波文庫)

カフカ短篇集 (岩波文庫)


今でもたまに読み返す。寓話のようで、終わることによって救いがある、ということを思い出させてくれる。

最初に読んだのは無難に「変身」だった。

変身 (新潮文庫)

変身 (新潮文庫)


誰しも感じるだろう後味の悪さ、そしてストーリーの突拍子のなさに、こういう古典もあるんだな、まあそれより昔にもラブレーセルバンテスがいるんだから、これはこれで陰鬱で斬新だったのかな、くらいに感じた。

ただ、面白いとは思ったので、「変身」以外の小説も読もうと思い、次に手に取ったのは「城」。新潮文庫の、黄色くて分厚いやつだ。

城 (新潮文庫)

城 (新潮文庫)


これが当時は本当に意味わからなかった。主人公が城に行くために奔走して、協力者や手がかりみたいなのを次々見つけるのに、結局城には到達できない。終わりのない悪夢のような感覚。あの手この手で話を「進めない」スタイルで、「変身」の後味の悪さとは違い、とにかく苦しくて疲れる読書。


その後、冒頭で紹介した岩波文庫の「カフカ短編集」を読んだんだが、この中の「判決」と「流刑地にて」に衝撃を受けた。この2つも、救いはない。だが、短編だけあってその結果がわかりやすく、「死」や「破滅」という形で示される。「変身」も面白かったが、主人公が毒虫になるなんてぶっ飛んだ設定になっているわけではないので、話の筋がすっと入ってくる。そのうえで、突如「…これ、もしかしてコントかな」と思えてしまうくらい、無茶苦茶な逆転が発生して、結局BAD END。一見救いのない小説なのだが、寓話のようで読み物としての面白さが際立って感じられ、この2編は今でも繰り返し読んでいる。


ただ、この短編を読んで「城」のおぞましさを逆に強く感じた。「判決」も「流刑地にて」も、「城」と違い、恐ろしい結末はすぐにやってくる。しかし、終わるということは、それ以上苦しまなくても良いというひとつの救いでもあるのだ。だからこそ、「城」は結末が訪れないから、余計に救いがないのだ。


カフカを読んだ時に感じるのは、結局何も助けてくれないんじゃないかという孤独感、無力感。どれだけもがいても、どんどん悪くなっていく。それならいっそ、諦めるのが良いのか、それでもあくまで、もがくのか。その狭間の極限を肌で感じる。


プラハの街を夜な夜な歩き、執筆のための部屋に籠って作品を残したカフカ

カフカという人物と、こんな小説を残したプラハという街はいったいどんなところなんだろうと興味を持ち、僕は大学の卒業旅行でひとりプラハへ行った。

雪降るプラハで感じる孤独は、「城」で無力感を味わうKの気持ちをそのまま写したかのようだった。