- 作者: 上田岳弘
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/06/30
- メディア: 単行本
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とってもスケールの大きい話らしい。なので次に読んでみようと思う。
読み始めてから読みお終わるまでずっと頭にあったのが「どっから考えた小説なんだ?」という疑問だった。おそらく結末ありきではない。結末はぼやかされ、あくまで本編中の妄想の延長を読者に委ねているように感じられる。
原子力発電、コンピューター、ホロコースト、テロ組織。そういった現代の事柄さえも予知していた、とんでもない大天才だった10万年前のクロマニヨン人の視点から、物語は語られる。彼は天才だっただけではなく、ドイツでホロコーストの犠牲者になるユダヤ人男性に、そして次に現代日本に生きる30代半ばの独身男性に2度「転生」している。転生した彼らはそれぞれ前世の記憶を持っているが、ひとり目のクロマニヨン人ほど天才ではなく、それぞれの、それなりの人生を歩んでいる。
そんな大天才だったクロマニヨン人が、未来の世界だけではなく、自分がいずれ出会うであろう理想の「恋人」を10万年前に描いていたのだが、その理想の恋人と、クロマニヨン人→ユダヤ人→日本人と転生してきた彼の3人目として現代に生きる「井上由祐」が出会ったことがストーリーの中心となる。
理想の恋人と、10万年前から転生を繰り返している日本人の主人公をクロマニヨン人の視点から俯瞰して追っていくストーリー。ところどころ過去の視点に場面は飛び、ホロコーストで殺された2人目の記憶、恋人である「キャロライン・ホプキンス」の半生と彼女と出会うきっかけとなった主人公とはべつの日本人との関係など、3人の「私」と恋人を中心に話は進む。
とんでもない知性を持つ10万年前の「私」も、ホロコーストで殺される2人目の「私」も、理想の恋人を心に描き続けてきたので、ただの理想の人とはわけが違う。時空を超えて、大天才の頭脳やホロコーストによる理不尽な死という苛烈な条件さえも超越して恋い焦がれた人。
転生や予知が組み込まれているので、恋人は「運命」のメタファーにも捉えられる。どれだけ先を見通せても、捉えられて離れられないものは存在する。時間や空間や科学や人類の行く末などよりも、それは大切で、我々は結局一個人であるということなのかとも思う。