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【書評】『人類を変えた素晴らしき10の材料』

人類を変えた素晴らしき10の材料: その内なる宇宙を探険する

人類を変えた素晴らしき10の材料: その内なる宇宙を探険する


「材料」って言葉を聞いて、まず何を思い浮かべるだろうか?
例えば、建物の材料と言えば?
木、鉄、煉瓦、コンクリート、ガラス…パッと思いつくのはそんなもんだろうか。

木は自然のものだからわかるとして、それ以外の材料が、どのような方法で作られているか、建物の材料として一般的になったのはいつごろか、なぜほかの材料よりもコンクリートやガラスが建材として優れているか、などと聞かれてすぐ答えを出せる人はいるだろうか。

例えば鉄は、建物の材料だけでなく、普段使っているスプーンやフォークなどの食器、書類をまとめるためのクリップ、乗り物、家電、等々…ごくごくありふれたものとして身の回りに無数に存在している。

同じ鉄でも、フォークの先端は曲がらないのに、クリップはたやすく手で曲げることが出来る。逆に、クリップを口に含むと鉄臭い味がするのに、フォークを口に含んでも何も味がしない。この違いは鉄のどんな性質によるものか。
こういう、当たり前すぎてなぜそうなってるのか気にしていなかったことが、本書を読むとその内なる宇宙を紐解くことによりわかるようになる。ほかの材料に比べてこうした性質が優れているから、今我々の生活の中には鉄が溢れている、という背景を理解できる。

それらはすべて、先人たちの試行錯誤の歴史の上に成り立っている。
鉄は石器時代から青銅器時代を経て鉄器を用いるように変わっていったのだが、鉄が重用されるようになった最大の理由である「石器や青銅器より丈夫だから」という点において、「鉄が丈夫である科学的根拠」が解明されたのは、なんとごく最近である20世紀になってからだ。

それまでは「うまい具合に鉄を加工することが出来た方法」を代々伝承することによって、上質な鉄を作る技術を磨いてきた。鍛冶屋や刀工の技術伝承などはまさにそれにあたる。科学や発明の力とは違う、人の力によって作られてきた文明の土台だ。

本書で取り上げられる材料は、鋼鉄、紙、コンクリート、チョコレート、泡、プラスチック、ガラス、グラファイト、磁器、インプラントの10種類。鉄のように伝統的技法で古くから作られてきたものもあれば、グラファイトやインプラントのように近代の科学技術がベースにあってこそ生み出されたものもある。それらの科学技術も、先人たちの「暮らしを豊かにする」ための努力によって生み出されてきた。

現代の文明の豊かさは、こうした材料を的確に使用する「物質的な豊かさ」の賜物だ。なぜ、我々は先人たちよりも豊かなモノに囲まれて生活できているのかを、解き明かすようにして理解させてくれる一冊。