Under the roof

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【書評】自分がなぜここに住んでいるか考えさせられた一冊『オフ・ザ・マップ 世界から隔絶された場所』

 

オフ・ザ・マップ 世界から隔絶された場所

オフ・ザ・マップ 世界から隔絶された場所

 

 

「地図にも載っていない場所」ってフレーズ、凄くワクワクする。
イメージは、RPGをプレーしていて、物語後半にならないと辿りつけない、成功法では行けない場所。

立ち入りを禁止された区域であったり、既に廃墟と化した町であったり。
そういう、通常は行くことができない場所だったり、地図に載っていない「現実の」場所のエピソードを集めたのが本書である。チェルノブイリやソマリアなどの有名な場所もあり、世界中の様々な訳ありの土地が紹介されている。

こういった「場所」に関するエピソードは、そのほとんどが戦争や国家の発展途中に発生したイレギュラーなど、何らかの形で人間や国家や宗教上の思惑がぶつかり合った結果生まれることが多い。

例えば、「シーランド公国」という、地理マニアの間ではちょっと有名ななんちゃって国家がある。

シーランド公国は、第二次大戦中にイギリス軍が海上に設置した要塞を、大戦終了後に放置されていたものをパディ・ロイ・ベーツ公が不法占拠したうえで勝手に独立宣言し、シーランド公国と名付けたのが始まりの、国際的には認められていない「自称国家」である。

普通なら勝手に「国家」なんて名乗っても無視されるだけだが、シーランドは立地的にイギリスの領海外であり、イギリスも含め各国が領有を主張していなかったため、立ち退きをさせようと提訴したイギリス政府の司法管轄外であったために裁判所が訴えを退けた。そのためロイ・ベーツ公は誰にも邪魔されることなくシーランドを国家として運営するに至ったのだ。
まさに「地図にも載っていない場所」であり、その国家としての運営状態のエピソードを読むだけでもワクワクする。

シーランドはかなり特殊な「成功例」に近いが、ほかの地図に載っていない場所は国家や思想に踊らされた悲しいエピソードを湛えているものが多い。

国家同士が勝手に国境を変更したため、エルサルバドル国民からホンジュラス国民に強制的になってしまった人々がいる。
ナウアテリーケというこの地区は、紛争後の長期にわたる国境交渉の末に、エルサルバドルからホンジュラスへと統治国家が変えられた。
突如自分たちが住んでいる国が変わるなんてこと、普通じゃありえない。
そんなありえない地区に住んでいたエルサルバドル人たちは、新たな主であるホンジュラス政府から、半ば無視されるような扱いを受けている。ナウアテリーケに住んでいる人たちは、行政や司法のサービスを今でも受けにくい状況にあるという。

それでも、その地に住み続ける人たちがいるのも事実。
本書はそういった、「場所」に対する愛情、いや、深い執着と言うべきだろうか。

自分が生まれ育った土地、何かのきっかけで暮らすようになった土地には、不思議と愛着が湧き、そしてそれは執着に変わっていくこともある。

場所はあくまで場所であり、そこがなければ生きていけないものではない。だが、生まれ育った土地から離れるくらいなら死んだほうがマシだと考える人も少なからずいるのも事実だ。
本書はそういった、場所に対する執着のこもった、不思議な力を感じる一冊だった。