Under the roof

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【書評】僕らの心も操られてる?『心を操る寄生生物:感情から文化・社会まで』

 

心を操る寄生生物 :  感情から文化・社会まで

心を操る寄生生物 : 感情から文化・社会まで

 

 

先日読んだ『ゾンビ・パラサイト』が面白かったので、それ以来気になっていたこれも読んでみた。

 

 

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より深く、広く、パラサイトという分野について書かれており、とても面白かった。

 

『ゾンビ・パラサイト』でも登場したハリガネムシや冬虫夏草などの有名どころもたくさん登場するうえ、それ以外の寄生生物たちもパンチの効いたやつらばかりだ。

 

個人的なお気に入りは「ロイコクロリディウム」だ。こいつは宿主であるカタツムリに寄生すると、脳を経由して触角へと侵入する。カタツムリの触覚って細長いものの先端に小さな目が付いているが、ロイコクロリディウムはその触角の中でどんどん成長し、破裂せんばかりに膨らんでパンパンになる。


ロイコクロリディウムによって触角がパンパンに膨らんだカタツムリは、行動まで操られるようになる。普段日中は暗く湿った場所に身を潜めているのに、無防備にも植物の高いところまで登っていくようになる。すると、パンパンに膨らんだ触角がまるで芋虫のように見えるため、本来カタツムリにとって天敵である鳥によって簡単に捕食されてしまう。だがこれは、ロイコクロリディウムにとって狙い通りの展開であり、次の宿主である鳥に食べられることに「成功」したといえるのだ。


YouTubeで「ロイコクロリディウム」を検索すると動画が何本もヒットするが、正直「勘弁してくれ」と言いたくなるレベルのグロさ。寄生し、触角内で蠢くという衝撃的なビジュアルへと変貌させ、さらにゾンビ化して操る、という一連の生態は寒気すら感じる。

 

とまあ、ほかにも「ギニア虫」や「エメラルドゴキブリバチ」なんかの衝撃的な寄生生物たちも多数紹介されていて、、読んでいて飽きない。こんな生態の生き物がいるのか、と感心しきってしまった。

 

そして、本書の後半では「じゃあ、人間の行動はどうなの?」ということについて掘り下げられていく。

先日読んだ『土と内臓』でも詳しく解説されるが、我々人間の腸内には無数の細菌やウイルスなどの微生物が生息しており、これら微生物たちの集まりを「ヒト微生物相(マイクロバイオーム)」と呼ぶ。このマイクロバイオームの働きにより、免疫反応や炎症などの様々な反応を人体に及ぼす。

 

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さらに、腸内細菌は人格まで左右している可能性もある。マックマスター大学の研究者たちの実験によると、遺伝的に気性の荒いマウスと物静かなマウスのグループにおいて、体内の微生物相が大きく異なっていたことから、一方の系統のマウスからもう一方へと腸内細菌を移植したところ、性格がそっくり入れ替わったそうだ。

 

この分野の研究では、人間においてもひとりひとりの脳の構造が、その人の腸で最も優勢な微生物の種類と関係しているという報告もされている。


また、セントルイス・ワシントン大学の研究によれば、太ったマウスと痩せたマウスではある腸内細菌の数が全く違い、それは人間の場合でも同じパターンがみられたそうだ。腸内細菌によって、肥満度に差があるとすれば、それは食べる行為や満腹感といった脳が発していると思われていた信号が、脳ではなく腸によって、正確には腸内の微生物によってコントロールされていたということにほかならない。

 

まだまだ研究段階で、本当かどうか疑わしい内容も多いんだが、それも含めて科学本としてとても刺激的で面白いので、こういった分野に興味があったら是非読んでみてほしい一冊だった。