Under the roof

三児の父が育児、家事、読書のこととか書きます

【書評】SF+ミステリー+疾走感『ここから先は何もない』

 

ここから先は何もない

ここから先は何もない

 

 エンタメ小説として一級品。


完成度云々じゃなくて、ミステリー色の高いSF設定の謎が、疾走感あるストーリーの展開とともに解けていく様は面白くて止まらなくなる。ボリュームはあるが、あっという間にストレスなく読み切れてしまう、まさにジェットコースター小説。

 

日本が打ち上げた小惑星探査機は、火星近郊の小惑星『ジェネシス』にてサンプル回収するはずが、なぜか別の小惑星『パンドラ』へ着陸。そして回収したサンプルから発見されたのは、なんと『エルヴィス』と名付けられた化石人骨だった。なぜ、探査機は別の小惑星へと目標を変え、しかもその小惑星には人骨が埋まっていたのか…

 

めちゃくちゃワクワクするプロットだけど、なんか既視感。

 

そう、あとがきでも作者自身がジェイムズ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』について言及しており、この小説は作者が『星を継ぐもの』に不満を持っていて、それを自分なりに解消するために書きあげたとしている。

 

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

 

 

なるほど、確かにスケールの大きさと謎を回収していく様は『星を継ぐもの』に近い展開。だけど、登場人物たちの突っ走っていくスピード感は『星を継ぐもの』とは違う感覚で、これも既視感。

 

宇宙と最新テクノロジーとスペシャリスト集団の戦いって点では藤井太洋『オービタル・クラウド』の疾走感に近い。こちらも一級のエンタメ小説なのでおススメ。

 

 

tojikoji.hatenablog.com

 

『星を継ぐもの』は、ラストの余韻が素晴らしい、人間賛歌に近い素晴らしい結末と読後感を抱いたけれど、本書はそのラストとはあえて逆を行ったような結末となっている。作者の言う、『星を継ぐもの』への不満について、あとがきでははっきり記されてはいないのだが、おそらくはこの「人類のこれから」こそが作者の不満だったのかなと感じた。