ヤバい本。内容ではなくて著者がヤバい。
『動物になって生きてみた』
一見すると、なんかニコ動の『歌ってみた』みたいで軽いノリを感じるが、中身のヘビーさはとんでもない。
タイトル通り、著者である生物学者が動物の暮らしを体験してみた、という内容なんだが、そのやり方が徹底しすぎててヤバい。
アナグマのように地面に掘った穴の中で寝泊まりし、ミミズを食べ、ネズミを追いかけまわし、嗅覚で周囲の様子を伺おうとする。
カワウソのように極寒の川へ飛び込み、髭の感覚で(人間の髭とカワウソの"ヒゲ"が同じ機能を持つわけないのに!)水中の様子を伺おうとする。都会に生きるキツネのように飲食店の残飯や生ゴミを漁り(よく捕まらないな)、アマツバメのように空を飛んで、空中で糞をする。
まあ、贔屓目に見ても頭おかしい。思っても、普通はやらないところまで踏み込んで、実際に長時間裂いて経験する。そこまでやったところで、何がわかるんだ?一体そこまで踏み込んで何を得ようとしているんだ?という疑問が付きまとうが、逆に言えばそこまでやるような狂人だからこそ辿り着いた境地、というものを本書から読み取ることができる。
ますますヤバさを加速させるのが、家族すら巻き込んでいる点だ。妻と、6人の子どもたちを持つ著者。アナグマの章では、息子のトムを穴暮らしの生活に同行させ、一緒に野外の穴の中で生活する。身長180センチを超える著者よりも子どものトムの方がアナグマ生活への順応力が高いのか、次第に臭いでネズミの足取りや水場の位置などを感じ取るようになってくる。トム凄い。
カワウソの章では、カワウソの縄張りを示す糞によるマーキングを再現するため、自分の子どもたち6人全員に河原で「うんちをしてこい」と命令する。方々に散ってうんちをし、戻ってくる子どもたち。その後、子どもたちのうんちによるマーキングを確認しに行き、「あー、人間のうんちでも、なんとなく誰がしたかわかるから、マーキングとしての効果もあるんだな」なんて感想を抱く。
で、これらのヤバすぎる内容がずっと、とても穏やかで詩的で哲学的な、正にうっとりするような心地よい文章で綴られていく。口の中にミミズを含んだ瞬間、キツネの死骸を見つけた時、カワウソになって極寒の川にも潜り込み、凍えて断念した時。
経験全てをクリアで明快な文章で伝えてくれ、専門的な知見も交えている。狂おしいほどの情熱を携えながら、それが押しつけがましかったり鼻についたりしないのだ。
ただ、淡々と、動物そのものになって生きてみた経験を真面目に描写してくれる。
ド変態が書いた、大真面目で自然に引き込まれる文章。是非手にとって、その目で確かめてほしい。正直、ここ数年で読んだ本ではトップクラスの衝撃だった。