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【書評】ケン・リュウ凄すぎ。この短編集もハズレなし。『母の記憶に』

  

母の記憶に (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

母の記憶に (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

 

前作『紙の動物園』がめちゃくちゃ面白かったケン・リュウの短編集第2弾。『紙の動物園』も短編集で、しかも全部面白いという傑作だったため、今回は期待値高いけど大丈夫か…と思って読み始めたらこれがもう余裕で上回ってくる面白さ。まじかよケン・リュウ。絶対次も読むしもっと刊行ペース上げてくれとも思わざるを得ない。

 

で、どのへんが面白かったかについて。

 

前作『紙の動物園』では全編通じて「泣けるSF」だった。今作でも勿論泣ける系の話が素晴らしいが、それよりも最初に収録されている『鳥蘇里熊』が凄い。

 

舞台は1900年代初頭のパラレルワールド。場所は満州なんだが、特殊な機械技術が発展した世界で、身体を改造し一部が蒸気タービンで動くサイボーグ的な男と、巨大な熊との死闘を描く。

 

この描写が凄まじくて、見たことのない「蒸気タービンの腕」が唸りを上げて熊の身体に炸裂し、いななきと荒い息が交錯していく様が目の前に浮かぶように入ってくる。なんだこの文章は。まあ、文章の素晴らしさを褒めちゃうと翻訳ものを原書で読んでないくせに何言ってんだってことになってしまうが、それでも訳を含めて未知の技術とその臨場感の伝え方が凄すぎる。SF特有の用語や世界観理解のかったるさがない。もうこの最初の1編だけで「ああ、これは傑作短編集だ」って頭になってしまった。

 

ほかに気に入ったものとして『重荷は常に汝とともに』

これは、いわゆるファーストコンタクトものなんだが、人類が発見した惑星ルーラは100万年以上前に滅亡してしまっていた。そんな惑星ルーラで発見される高度な文明の遺物を探査する人類の話。

 

地球とは全然違う世界で何が重要だったのか。人類と共通するもの、またはまったく異なるものについての思考実験が面白い。ちょっとスタニスワフ・レムっぽさもあって、自分の想像の中でも無限に話を膨らませて行けそうである。

 

ほかにも『カサンドラ』とか『状態変化』とか『残されし者』とかとにかく人におススメしたい短編ばかり。僕個人としては全編面白くて噛みしめるように読んだ。

 

年末年始コタツで読みたい小説を探しているならお勧めしたい1冊。小説の面白さがたくさん詰まっている。

 

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