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【書評】選挙に、政治に、我々はもっと興味を持つべきだ『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』

 

黙殺 報じられない“無頼系独立候補

黙殺 報じられない“無頼系独立候補"たちの戦い

 

 

今のところ、今年読んだ中で最高の本。

 

一見すると本書は、マック赤坂に代表される『選挙に出てくる主要でない候補者』について、面白おかしく書かれた読み物なのかな…なんて軽い気持ちで手に取ったら、とんでもなかった。

 

読みながら感じるのは、自分自身の無知さ。僕はなぜ、今までこんなに政治に興味を持たずにいたのだろう?なぜ選挙について詳しく知らなかったのだろう?なぜ、マック赤坂をはじめとする「当選する見込みのない候補者」たちのことを、ただのウケ狙いだろうとか、売名行為だろうとか決めつけて詳しく政策内容を見ようとしなかったのだろうか、と。

 

そもそも、『主要でない候補者』というのが大きな間違いであり、テレビ・新聞・ネット等の主要候補に集中しすぎる報道に毒されすぎてきたということに気付かされた。

 

当選する見込みのない候補者のことを、報道機関等では「泡沫候補」と呼ぶ。はかない泡のように消えてしまう、という意味だが、そんな呼び名では本当に出馬しても意味がないと言っているような捉え方だ。だから、本書において著者は「無頼系独立候補」と呼んでいる。大きな後ろ盾に頼らず、独力で立候補し選挙戦を戦う候補者たちということだ。

 

恥ずかしながら、今までは「選挙は当選ないと意味がない」みたいな認識をしていたが、その視点をぶち壊して全く新しい世界を見せてくれた。選挙は政治というステージを我々の身近で見せてくれるお祭りなのだ。今の我々は、そんな選挙というお祭りを楽しむことができていない状態なのだ。

 

例えば、本書の1/3が丸々割かれた「マック赤坂」について。「政見放送芸人」と呼ばれ、候補者たちが自分の政策を語る場であるはずの政見放送内でスーパーマンの格好で登場しネットで話題になる男。選挙活動中に行われる演説に変わる奇抜なダンスや衣装でも有名だ。

そして、都知事選や参院選などに毎回出馬し、落選することでも有名だ。

 

売名行為とかウケ狙とかいうイメージばかり先行してしまっているが、マック赤坂の政策について詳しく知っている人はどれだけいるだろうか。

確かに政見放送で政策について深く語ってはいないかもしれないが、それでもテレビや新聞でマック赤坂の政策や選挙活動について大きく報道されることはほとんどない。2016年7月に実施された都知事選でも、主要3候補と呼ばれた小池百合子、増田寛也、鳥越俊太郎のことばかりが報道され、残りの候補者たちについては名前や顔くらいは出ても「○○で大規模な演説をした」等の報道はほとんどされなかった。

 

「当選する見込みのある人をメインに報道するのは当たり前だろう」というのがまず問題だ。候補者たちはその経歴や政策は違えど、みんな等しく被選挙権を持ち、出馬するための供託金(都知事選なら300万!)を支払い、出馬のための煩雑な手続きもクリアしている。それなのに、元国会議員、元スポーツ選手、元ジャーナリスト、などといった経歴を持つ、当選の見込みのある人、言ってみれば「政党の推薦」や「世間一般に顔が売れている人」などの、当選のためのバックボーンに恵まれている人ばかりが選挙報道の対象とされる。

 

本来、全候補者の中から政策を見て投票を決めるべき選挙において、いつの間にか「勝てそうな人のなかでは誰がいいか」にすり替えられてしまっているわけだ。

 

主要候補が「少子化対策に力を入れます!」といったフワッとしたことを言っているのに対し、きちんと全員を見れば「少子化対策のために、子育て世帯に〇〇円支給!独身の人には増税!」みたいな具体的な政策を提示している無頼系独立候補者もいる。そんなはっきりとした志も、今の選挙報道と選挙制度では埋もれてしまっている状態だ。

 

そして、選挙は勝たなければ意味がない、というのも大きな間違いだ。落選した候補者のなかにも、良い政策はたくさんある。それならば当選した候補者がそれを積極的に取り入れれば、間接的に落選した候補者も選挙を通じて政策を実現したことになる。

選挙では、これからの世の中をこうしていきたいと声を大にして披露し、それが実現へと向かうことこそに意味があるのだ

 

とにかく本書には、選挙と政治に関するとんでもない量の『基本的に知っておくべきこと』がたくさんあり、なおかつそれが面白く書かれている。今の政治に無関心になってしまった我々にとって、もっと根底から選挙と政治とは何かを学ぶ機会を与えてくれる、ユーモアと知見に溢れた最高の一冊だった。