Under the roof

三児の父が育児、家事、読書のこととか書きます

【書評】「面白さ」が濃縮された小説『ゲームの王国』

 ゲームの王国 上

ゲームの王国 上

ゲームの王国 下

ゲームの王国 下

凄い。こういう本があるから読書はやめられない。

 

ベストセラーでも、メディア絶賛にもなっていなかったと思う本書。だが、様々な有名レビューサイトで大絶賛されていたので、まあこれは間違いないんだろうなと思って期待に胸を膨らませて読んでみたらそりゃもう凄いのなんの。


内容についてのレビューは、もう『ゲームの王国 レビュー』とかで検索してもらったほうがいいくらい、いろんなサイトで書き込まれている。正直ここで改めて書くこともないくらい。黙って読め!が正解かと。


ただ、より楽しく読むために、ある程度知っておいてほしいこともある。


まず物語の始まりは1956年のカンボジア。

 

僕は世界史とか全く詳しくないんだが、それでも20世紀中盤から後半のカンボジアと言えばだれでも思い浮かぶものがあるだろう。そう、ポル・ポト派による大虐殺だ。


で、本書は小説としてのフィクションの土台にしっかりこのポルポト派以前と以後の歴史が関わってくるので、予備知識としてポルポト派についてググッておいた方が間違いなく本書の面白味が増す。


てか、ググッて出てくる情報だけでもおなか一杯になるくらいポルポト派ってヤバいんだが、そんな時代を主人公たちがどうやって生き抜いていくか、というのが上巻のメインストーリーになる。パニックとホラーとサバイバルとさらには能力バトルまでもが混ざり合った、とんでもなく濃密な上巻。


で、下巻は急にSF要素が入ってくる。政治と、脳波を利用したゲームを中心に、上巻の生き残りたちが中心に話が進む。


『ゲームの王国』を名乗るくらいなので、ゲームに関する知識も重要。ビデオゲームだけでなく、ポーカーなどの運と戦略両方が大切になるゲームについても知っていると、より楽しめる。


ゲームでは、ビデオゲームでもボードゲームでもトランプでも、それこそじゃんけんや手遊びなどの道具を必要としないものでも、明確なルールの上で純粋に勝ち負けなどの目標が設定されているのが当たり前だ。そこにズルや明確なルール違反が入ってはゲームは成り立たない。将棋で勝負しているのに、負けそうになったら盤をひっくり返したり、相手を殴ってそれ以上ゲームを続けられないようにしたり、というのは誰が見たって駄目だろう。

 

だが、政治の世界では往々にしてそういったズルが入ってくる。もちろん政治はゲームとは違うが、選挙や政治活動には法律などの明確なルールがあるにもかかわらず、破ったものが勝者として存在しているのも事実だ。


 だからこそ、そんな不正にまみれた世界を「ゲームのように」ルールを守って勝負し、勝ちたい。そんな理想の追求を、今より少し未来のカンボジアでそれぞれが目指していく。


 生き残るためのサバイバルから解放されたものたちが目指す、理想を実現するためのゲーム。様々な角度から予想もできないような濃いネタがたくさんぶち込まれてくるが、それがきれいに一本にまとまっていて読む手が止まらなくなった。


改めて、大絶賛の理由が読んでこそはっきりする、とても素晴らしい小説だった。