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【書評】ドM科学者の異常な愛情『蜂と蟻に刺されてみた』

 

蜂と蟻に刺されてみた―「痛さ」からわかった毒針昆虫のヒミツ

蜂と蟻に刺されてみた―「痛さ」からわかった毒針昆虫のヒミツ

 

 

個人的に、『生物学者の異常な愛情シリーズ』と呼んでる本たちがある。
 
『バッタを倒しにアフリカへ』や『動物になって生きてみた』がその代表。
研究対象に対する驚異的な執念や、溢れすぎてしまった愛情により生まれる「大群で飛んでくるサバクトビバッタに身をさらして食べられたい」や「アナグマになって森の中で穴を掘ってミミズを食べて生活してみた」といった、ぶっ飛んだ性癖じみた行動や妄想。いろんな意味で振り切っていてやばい。常人ではついていけない世界。だが、ついていけない世界だからこそ、そのドアの先の景色が見れて面白くて、読んでよかったと思える本たち。
 
で、本書もそういった『生物学者の異常な愛情シリーズ』に加えるべき一冊。
 
タイトル通り、蜂と蟻の研究者である著者が、観察を通じて実際に刺される。その結果の詳細な描写があって、いかにもマゾっ気溢れるヤバイエキス滴る本なんだが、それ以外の解説が非常にわかりやすくて面白い。
 
蜂と蟻は、どちらも集団生活をするという昆虫だ。しかも女王、働き蜂or蟻、兵隊、そして繁殖時以外ほとんど役に立たない雄といった、明確な役割分担を持った社会性のある集団生活をしている。
 
毒針をもつということと、集団生活をするということの関連性、そして毒針の細かなメカニズムと、実際毒針に刺されたら体にどのような変化が起きて痛みを感じるのかといったことが本書の序盤で詳しく解説され、本書の後半で著者が実際に刺されてみるまでにまんまと蜂と蟻に関する関心が高まるようになっている。
 
そして、実際に刺された痛みについても、レベル0からレベル4までの5段階で痛みを評価し、刺された(と言うより自分で刺すように仕向けた)蜂と蟻の生態についても詳しく解説してくれる。驚くのはその痛みレベルの一覧表だ。「ヒアリなんて、序の口」というタイトルとともに、まずヒアリはレベル1に設定されている。一覧にある蜂と蟻の数は82種にものぼり、チクっとした痛みから目が眩むほどの強烈な痛みまで詳しい説明が載っている。まるでワインやクラフトビールのカタログを見ているようだ。こんだけ刺されてアナフィラキシーとかで死ななかったのはすごいのかなとも思う。
 
刺す昆虫の言うのはそれだけで嫌われ者になりがちで、甲虫や蝶なんかよりも興味を持ちにくい部分もあると思う。しかし、実際はその刺すためのメカニズムや、社会性を持った生態など、複雑で面白い科学の詰まった生き物でもある。
そんな蜂や蟻たちを、異常な愛情で面白く解説してくれた本書。昆虫好きならぜひ手に取っていただきたい一冊。