ゾンビ・パラサイト――ホストを操る寄生生物たち (岩波科学ライブラリー)
- 作者: 小澤祥司
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2016/12/07
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「冬虫夏草」ってご存じだろうか。
冬は虫で、夏は草。別のこの名前のとおり季節によって虫モードと草モードを使い分けるとかではなく、昆虫の身体を媒介に成長するキノコの一種のことだ。代表的なのは「セミタケ」と呼ばれるセミの幼虫から発生したキノコで、セミの幼虫って地中にいるからまるでセミの部分がキノコの根っこみたいに見える。中国なんかでは漢方として重用されているらしい。虫から生えたキノコなんて逆に体に悪そうだが。
子供のころ、地中の生き物について書かれた図鑑で目にして、とても興味を持ったのを覚えている。セミからキノコで「冬虫夏草」という名前。当時おそらく小1くらいだったのだが、そんな小さな子供でも中二病的な心をくすぐられた。
本書は、この冬虫夏草を始めとする、他者の体内に入り込み、栄養をもらい、時には操って殺しもする寄生生物たちについて書かれた一冊だ。寄生(パラサイト)するだけではなく、ゾンビ化までする生きものというのは、思っていたよりも珍しいものではないということが読み進めればわかってくる。
例えば、誰もが一度は聞いたことがあるかもしれない「ハリガネムシ」
実物を見たことがある人は少ないだろうが、田舎だと結構いるようで、僕の周囲には実際に見たことあったり、寄生されているカマキリのお尻をバケツに貯めた水につけることによりハリガネムシが出てくるように仕向けたことがあるって人もいた。カマキリのお尻から長いハリガネムシがニュルニュル出てくるらしい。なにそのホラー。
あれって、ただカマキリの腹の中に寄生してサナダムシみたいに栄養を横取りしているだけなのかと思っていたんだが、本書でそんな認識が覆された。ハリガネムシは繁殖のためにカマキリの体内から川や池などの水の中へ行く必要がある。カマキリのお尻を水につけたらハリガネムシが出てくるのは、もともと水中で繁殖するという生態のためだ。
だが、カマキリは陸生の昆虫で、川や池の付近で水際ギリギリに近づくような習性はない。
そこでハリガネムシは、驚くべきことにカマキリをの行動を”操って”、池や川に近付かせて入水自殺さながらに水中に飛び込むことさえあるという。
この”操る”についてはまだ解明されていない部分が多いようだが、どうやら水面に反射するキラキラした光に反応し、宿主がそこへ向かっていってしまうように仕向けているというのが有力らしい。脳や神経を乗っ取るわけではないが、逆に言えばカマキリにしてみれば無自覚に「キラキラを目指さなきゃ…!」と誘導されてしまっている状態というわだ。
ハリガネムシに寄生されたハラビロカマキリが、水を目指して行列となって移動することさえあるそうだ。まるでレミングス。宿主の体内に侵入し、栄養を吸い取って成長、そして宿主を殺して体外へ出てくるなんて、ゾンビや寄生系の映画の設定をフィクションだと笑えない、寒気がするような現実と言える。
自然界にはこういった、宿主をゾンビ化するパラサイトが当たり前のように溢れていて、もっとおぞましくなるような方法でゾンビ化したホストを操り、死に至らしめる生物が存在している。SF世界のような自然の秩序を学べる、面白い科学本だった。