【書評】Tシャツと人生と。『捨てられないTシャツ』
何だろう、この面白さは。
『捨てられないTシャツ』ってタイトルだけど、中身はほとんど誰か知らない人の半生について短くまとめられたエッセイみたいなものが大半。で、申し訳程度にTシャツの画像とそれについてのエピソードが載っている。
とにかく面白エピソードというか面白半生のオンパレードで読んでいて飽きない。
タイトルからすれば、てっきり思い入れのあるTシャツについて熱く語るのかと思いきや、ほとんどは人生の話。しかも、名前などは伏せられていて、年齢と性別と職業くらいしかわからなくなっている。、だからこそ、それぞれのエピソードに添えられたTシャツの写真が味わい深くて、その人の顔そのものに思えてくる。要するにTwitterのアイコンとかと同じだ。お洒落な人生を語る人のTシャツはお洒落に見えるし、紆余曲折苦労の絶えない人のTシャツはそれなりに物悲しく映る。
ただ、だいたいのエピソードはユーモアたっぷりで、肩に力入れずに読める。だが、思わず目を疑うような紆余曲折ストーリーもとても多くて驚く。
編者の都築響一曰く、ほとんどの文章が「素人がスマホなどでメールやTwitterのダイレクトメッセージベタ打ちで送ってきた文章にもかかわらず、修正する必要のない完璧な文章ばかりだった」とのことだった。本当に素人の文章?と思わざるを得ないくらい、どの文章もリズミカルで読みやすく、面白くてハズレがない。
読んでいると、他人の人生を覗き見ることの面白さと同時に、自分だったらどうエピソードを書こうかなということも考えてしまう。僕にも確かに捨てられないTシャツがある。大切な友人から貰ったもの、ライブで買った思い出の詰まったもの、学生時代よく着ていたもの…一つに絞るのも大変なくらいだ。
Tシャツって、誰でも持っていて、お気に入りとかもできるからこそ、人生に結び付けてエピソードが生まれるものなのだなと改めて感じた。考えてみれば、5歳の息子が着ていたTシャツだって僕らにとっては思い出いっぱいだ。
Tシャツという触媒を介して、いろいろな人生を覗ける、とても面白い一冊だった。