【書評】ノンフィクションの法医学ミステリー『死体は嘘をつかない』
暗い感じの表紙だが、中身はとても面白いノンフィクションだった。
よくドラマやドキュメンタリーで出てくる「法医学者」と呼ばれる職業。資格としては「医者」で、死体の解剖や化学的な分析などを通じて死因を解明し、それが司法の場において動かぬ証拠に結びつく。
本書の凄い点は、ただ変わった死因、解剖によってこんな死の謎が解けたというだけでなく、それが容疑者の無罪を証明するものであったり、その後の遺族や社会に多大な影響を及ぼしたという付随するエピソードがどれもこれもとても面白いという点だ。
例えば、軍の基地内部で、両手をベルトで縛られた状態で発見され、近くにテロリストらしきものの声明文も落ちていたアメリカ軍幹部の首つり死体。どう見ても「不法侵入したテロリストによって縛られてから首を吊られた」他殺体に見えるのだが、解剖で争った形跡が見つからない、自分自身で手を縛るのも難しくない、テロリストの声明文は軍幹部しか利用できない個室内に置かれたタイプライターで作られたものだった、などの様々な謎の点を繋いでいき「家族に残す保険金目当て他殺に見せかけた偽装自殺だった」という結論を導き出す。
他にも、銃による他殺体の撃たれた方向や状況を検証し、殺しの容疑者として逮捕された者の誤解を検死により解き明かしていく事件がたくさんあるのだが、興味深いのは検死によって明らかに容疑者が殺害した事件ではない、自殺だったり正当防衛だったりする事件でも、それが司法の場で決定的な無罪放免の証拠にならず、メディアや検察側の大げさな心象操作で陪審員の決定が「有罪」となること例がたくさんあるということだ。
あくまでも著者は死体が語る真実を提供しているのに、それよりも証言台に立つ知人等の言葉により裁判の流れは大きく変わってしまうことがあるのだ。自分たち検死医が最新の科学を用いてできる限りの謎を解こうとしているのに、それが覆ってしまうのでは何のための検死だと感じてしまう場面もあるということだ。
ほかにも、J・F・ケネディ暗殺で有名なリー・ハーヴェイ・オズワルドの死体を埋葬から18年ほど経ってから掘り起こし、その死体がオズワルド本人か検証したものの顛末や、何人もの乳幼児が突然呼吸困難によって死んでしまう小児科とそこの看護師の事件など、各章のエピソードのバラエティも富んでいて、とにかく読んでいて飽きない。
ミステリーでもあり、ドキュメンタリーでもあり、エンタメ要素も含んでいる、中身の濃い一冊だった。