【書評】1/2の確率で、密猟アワビを食べているかもしれない衝撃『サカナとヤクザ』
暴力団の資金源といえば?
と聞かれると、僕は安直に「賭博」「風俗」「薬物」みたいな、闇の深いものばかり思い浮かべてしまう。
僕みたいな平凡で想像力に乏しいインドアサラリーマンにとっては、暴力団というものは全く関わりがなく、これからも関わることのない完全な「裏の世界」のものだと思っていた。
ところが、だ。
本書では、自分たちが普段食べている魚介類と暴力団の密接な関わりについてが暴かれる。
なにせ、アワビは日本で取引されるうちの約45%が違法な密漁によるものだという。たまに奮発して行く寿司屋で口にするアワビの1/2が「違法なもの」かもしれないのだ。
ほぼシームレスに我々の食事と暴力団が繋がっている。この事実だけでかなりの衝撃を受けてしまった。
「深夜にボートで無人の堤防へ運び込み、トラックへ積み込んで逃げる」
まるで違法薬物や銃火器の取引のようだが、これをアワビやナマコでやっているというのだから驚きだ。
海上保安庁や警察の捜査をかいくぐり、深夜の海に潜ってアワビやナマコを乱獲するのだという。
資源が枯渇しないように漁獲量や漁の期間などが定められているが、己の利益のために法を無視してアワビを捕る。
面白いのが、数が少なくなればそれだけ獲物の単価も上がるので、それだけ密漁で取れる数が少なくなっても利益はそれなりに出るという点だ。
ナマコなんかは国内での価値はそれほどでもないが、中国では干しナマコは高級食材として高値で取引される。キロ単位の価格がここ10年程度の期間でも乱獲による現象等の影響で倍以上に上がっている。だからこそ、捕れば捕るほど儲かるから密漁はなくならない。
実際に密漁をしている人たちも、本人がヤクザというケースはわずかで、密漁する地区を取り締まっている暴力団がみかじめ料を徴収し、そこで半グレ的な人たちがダイビングスーツに身を包み潜って密漁しているらしい。素人目に見ても風俗のショバ代とシステムが一緒。暴力団の資金源というのはよくできているんだなと感じてしまった。
密漁品が実際に売買されている現場を知るために著者が敢行した「築地市場で実際にアルバイトとして働いて取引の事実を調べる」という潜入ルポもあり、市場という特殊な労働環境の内部が見て取れるのも面白い。
ヤクザ世界とか漁業とか興味なくても、文章の面白さからかテレビのドキュメンタリーを見ているようにさらっと読めてしまう。
知らず知らずに自分たちの生活と繋がってしまっている裏の世界について少しでも興味があれば、是非読んでほしい一冊。