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【書評】生活苦のきょうだいに、どこまで手を差し伸べられる?『きょうだいリスク』

きょうだいリスク 無職の弟、非婚の姉の将来は誰がみる? (朝日新書)

きょうだいリスク 無職の弟、非婚の姉の将来は誰がみる? (朝日新書)


あなたにはきょうだいが何人いるだろうか。

そして、そのきょうだいに、何も心配なことはないだろうか。

僕は3人きょうだいの長男。妻は4人きょうだいの末っ子。それぞれ、きょうだいに対して直接連絡を取る機会は少なくなっている。

妻のきょうだいには、うちの子供たちと同じくらいの子を持つ夫婦がいるので、互いに相手の子供の誕生日などに送りものなどをすることがあるが、そうでもなければ直接お互いがどうしているかの連絡なんてわざわざ取ることはほとんどない。


我が家の子供たちは、4歳の兄と1歳半の妹、そして今秋、3人目が生まれる。

まだまだちいさな子供たち。兄と妹は、妹が1歳半でまだ言葉のコミュニケーションを取れないが、仲よく遊んでいる。3人目が生まれればもっと賑やかになるだろう。今から楽しみだ。

今、うちの子供たちは仲よく遊んでいるし、向こう10年くらいは同じ状況が続くだろう。

だが、大学進学や就職を機に、親元を離れ自立していくようになると、自然にきょうだい間の仲が疎遠になっていく人がほとんどだと思う。お互いが仕事を持ち、家庭を持ち、それぞれのコミュニティーに所属するから、きょうだい間で太いパイプを持って助け合う必要がなくなる。

…であればいいのだが、本書ではそうではない人たちが増えているという問題を取り上げている。

独身、無職、孤立…様々な理由で生活に不安を持つ人たちが「きょうだい」にいたら。将来的に面倒を見るのは誰になるのか。自分の親なら、育ててくれた感謝と割り切って介護など老後の面倒を見ることもできるだろう。だが、その対象が「きょうだい」だとしたら。

きょうだいは普通、同年代であることがほとんどだ。きょうだいに介護が必要になった時、自分自身も年齢を重ね介護が必要になってくる時期に差し掛かっているはず。子供に頼んだり、施設に入所する余裕がある人は問題ないだろうが、独身で貧困に陥っているきょうだいに介護が必要になった時、果たして無条件に手を差し伸べられるだろうか。自分だって年を重ねている。自分自身のことで手いっぱいになっている可能性は高い。

これは単純に、きょうだいに対する介護や援助の問題が増えているとかではなく、現代の社会が抱えている問題が「きょうだいリスク」として跳ね返ってきているという状況にほかならない。失業、非正規雇用、生涯未婚、貧困、孤独、引きこもり…ありふれた問題ばかりだが、これらの問題を抱えたきょうだいを抱えていた場合、具体的にどう対処したらいいか答えを出せるだろうか?

本書では、実際にそういう状況に陥っている人たちに取材をしたルポがいくつか収録されている。
問題のあるきょうだいを抱えた人がいったいどう考えているか、どう折り合いをつけていくかの参考として読むことができる。

きょうだいというのは特殊な関係だ。親子は死ぬまで「家族」という意識が強く結びつくイメージがあるが、「きょうだい」は成人してしまうと他人並に疎遠になってしまう人が多い。親よりも合う頻度は減り、直接きょうだい同士で連絡を取る人も少ない。なのに、肉親であるという事実は変わらず、お互いに面倒を見なければならない義務は付きまとってくる。

就いた仕事、築いた家族、持てる資産などできょうだいに格差が生まれ、貧困で苦しんでいるきょうだいがいた時、いったいどうすればいいか。本書の後半はそういった人に向けた、公的な支援や家族や第三者を介入させたさまざまな解決方法を学ぶこともできる。きょうだいを助けるために、法的にはどこまで責任が及ぶのか。法律と実情に沿った解決策を見つけるためにも、大いに役立ちそうである。

社会構造的に、きょうだいリスクを背負う人は間違いなく増加していく。その時になってどうするか考えるよりも、本書のような手引きを読むことによって、より広い視点で問題を捉えることもできるようになるだろう。