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Under the roof

三児の父が育児、家事、読書のこととか書きます

【書評】勝ち組たちの醜悪な争い『ハイ・ライズ』

読書

 

ハイ・ライズ (創元SF文庫)

ハイ・ライズ (創元SF文庫)

 

 

ロンドン中心部にそびえる40階建てのタワーマンション。戸数は1,000戸。マンション内にはスーパー、プール、銀行、学校が完備されていて、住民は医師やTVプロデューサー、建築家、評論家など、高収入の所謂「勝ち組」たち。

 

最新のマンションで不自由のない暮らしをしていた住人達が、全室入居となった夜に突如起きた停電をきっかけに、住民も建物もおかしくなっていく…って話。

 

マンションは、主に10階までを「下層部」35階までが「中層部」それより上が「上層部」として、上のほうの住人ほど下の階の住人たちを見下し、逆に下層の人たちは上層の人たちに対し反骨心を抱いている。

 

住民たちは、停電をきっかけにいさかいを始め、それがどんどんひどくなっていくんだが、そのエスカレートっぷりがすごい。まずは同フロアのものたちが徒党を組んで別フロアの住居へ襲撃をかける。そういった襲撃が頻発するようになると、住民たちはバリケードを築き、自分たちのテリトリーを守ろうとする。


すると今度は、インフラの奪い合いとなり、自分たちのフロアでエレベーターを止めたままにしたり、階段にバリケードを築いてマンション内外からの出入りを難解なものにし始める。

 

停電は頻発するようになり、プールは水が濁り使用不能に。エレベーターは故障により停止しはじめ、管理会社も修理をしないまま放置する。ゴミはフロア内の通路やエレベーターホールなどに放置され、さらには水道も出ないようになり、住民たちは風呂にも入らなくなるが、なぜかその状況を受け入れたまま普通に会社に行ったり、特に気にせず生活を続ける。


むしろそんな状況においても、住民たちは夜間にパーティーと称して乱痴気騒ぎを繰り返す。生活環境の悪化を認めず、むしろ自分たちが暮らすフロアの集団を、ほかのフロアのものたちに対しての誇示と威嚇で、敵対心をさらに助長し、事態は完全にマンション内での縄張り争いのような状況になっていく。

 

高収入で、知的労働に従事していたはずの登場人物たちが、動物的な生活に堕ちていくさまが面白い。地位と名誉があって高収入で最新の住居に何不自由ない暮らしをしているからこそ、階層というわかりやすい上下関係により、同じ条件における領土争いのような状況に陥っていく。

 

「あいつが気に入らない」「あいつらむかつく」といって始まるいじめが障害や殺人にエスカレートするように、閉鎖的な空間において気に食わない差異を埋め尽くすためには敵意むき出して相手を封じ込めるしかないのだろうか。だからこそ、本能的な争いに没入して取り返しのつかない事態にまでどんどん突き進んでいく。登場人物たちの壊れていく描写もいちいち面白くて、環境の劣悪さとそこにいる人間の感情の劣悪さは同じようにエスカレートしていくんだなと妙に納得しながら読んでしまった。


悪意や憎悪が増長していく様は、まるでゴールディング『蠅の王』のよう。救いこそないが、なぜか原始に戻ったその世界で登場人物たちは安堵を迎えていた。廃墟と化し、人もいなくなり孤独と不便さしかない世界でも、争いのない自由によってこそ安堵を感じられるのだろうか。