Under the roof

三児の父が育児、家事、読書のこととか書きます

【書評】孤独と失望が心地いい『ビニール傘』

 

ビニール傘

ビニール傘

 

 

短編2本。どちらも薄暗い、まとわりつくような無力感が漂う。

 

表題の短編『ビニール傘』は、大阪を舞台に明確な括弧書きや誰のセリフかを表さずに、様々な若者たちの無気力に感じられるようなつぶやきがひたすら続く。仕事で感じた苦痛、恋人との別れ、貧困、将来への希望の無さ、といった感情がどこか客観的な感じで呟くように繰り返される。

共感できる部分は誰しも持っているだろう。いいことはあんまりないけど、絶望でどうしようもないわけでもない。そんなダラダラと過ごしてしまいがちな時期の空気感が強い。ああ、自分もこうだったな、を読みながら感じ、今の自分とこんな時代の自分とでどう違ったのだろうとも感じる。あのころの自分は、こんな空気から脱出したいと思いつつ、どうしたらよかったのかが分かっていなかった。でも、今の自分はあのころの自分とは、おそらく全く違う。
ただ、読んでいて心地よかったのだから、これはやはり20代前半くらいに誰しも感じたことのある空気なのだろう。

 

 

2編目『背中の月』は、若い夫婦の話。突然の病で妻を亡くした夫が、妻と過ごした幸せな過去と、妻を亡くしてからの暗い現在を行ったり来たりしながら物語が綴られる。妻が生きていた間も、生活は上向きではなく、希望に満ちたものではなかった。だが、その頃のダラダラとした生活も、掛け替えのない輝かしいものに見えるくらい、妻の死後の喪失感が深い。


妻の死というわかりやすい象徴があるが、これは様々なターニングポイントとして置き換えられる。それを境に幸せになるか不幸になるかは、それぞれ異なるだろうけど。