【書評】『子どもは40000回質問する あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力』
子どもは40000回質問する あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力
- 作者: イアン・レズリー,須川綾子
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2016/04/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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子どもがたくさん質問することと子育てに関するTips集かな、と思って読み始めたら全然違った。子どもも大人も関係なく、ヒトが抱く「好奇心」というもののメカニズムを細かく紐解いた、好奇心というキーワードによって好奇心自体を強力に刺激してくれる一冊。
よく「好奇心旺盛な人」とか、「何にでも好奇心を抱く人」みたいな言い方をする。こういう人の好奇心とは、いったいどこからやってくるのか。
好奇心の大前提として、人は自分が全く興味を持っていないことに関心や願望の対象を持つことはない。そして、逆に知り尽くしていることに対しても無関心になることが多い。
つまり、人が好奇心を抱きやすいのは「ちょっとだけ知っていること」であることが多い。「ちょっとだけ知っている」状態と「知り尽くしている」状態の間こそが、もっとも好奇心が働きやすい状態なのだ。
この「知識」と「好奇心」の関連性を見ると、いかに好奇心が膨らむくらいの土台となる知識を身につけるかが重要だということがわかる。あるテーマに興味を抱くには、それに対して深く思考を巡らせる基盤がないと継続的な好奇心を得ることができない。
好奇心の強い子がたくさんの知識を得ようとするのではなく、たくさんの知識があるからこそ様々な分野に好奇心を抱くようになるのだ。
興味深いデータとして、多くの質問をする子は、親から多くの質問をされているというものがある。つまり、質問する、知識を得ようとする行為は、相手に伝染するということだ。
そして、知識は知識に引き寄せられる。
新しく得た些細な知識は、それがすっぽりはめ込まれる枠ができていないと30秒も経たないうちに作業記憶から抜け落ちてしまう。歴史上の人物なら歴史に詳しい人のほうが、サッカー選手の名前ならサッカーに詳しい人のほうがスッと記憶できるように、新たな知識を留める受け皿ができているほうが情報は脳に定着しやすい。知識が豊富であればますます知識は増え、知識が乏しいと一段と乏しくなってしまうのだ。
今はインターネットがあり、スマホやタブレットがあれば子どもたちでも簡単に必要な情報を得ることができるようになった。それでも我々は、漢字の読み書きや英単語の意味、元素記号や歴史上の人物を暗記して、方程式を用いて数学の解を求めている。
なぜインターネットという便利なものがあるのに勉強しなければならないのか?そんな疑問が生まれるのは、脳の働きについて根本的な誤解をしているからだ。
ネットで得た情報は、背景知識という受け皿のないところに落ちてきた一時的なものでしかない。この一時的な情報を定着させようと思うなら、結局はその背景となる知識を得ないと長期的な記憶として定着させることが難しく、内容をじっくり考える余力も失われる。幅広い知識を持っていればこそ、新しい情報は脳に定着しやすくなるのだ。
だからこそ、大人になってから語学や歴史や生物や天文学に興味を抱き始めるひとや、再度学生として勉強を始めたいと考える人がいるのは、子どものころから溜めてきた知識が結びついてきたために、大人になってから好奇心が花開いた結果の典型例ともいえる。
本書のタイトルのとおり、子どもは2歳から5歳までの間に平均40,000回ほど「これは何?」という質問をするそうだ。
よく、子どもが自分で好奇心を抱いたものを尊重しましょうという進歩的教育と呼ばれるものを耳にするが、そもそも知識という土台がなければ好奇心を抱くことが難しくなる。子どもの好奇心を育てるのは、土台となる知識だ。
子育てだけではなく、自分だってこの本を読んで「面白かった」と思える好奇心を持ち合わせている。「自分は○○が好きだから」という、無意識に捉えていた好奇心というものの実体を掴む、ヒントとなってくれる一冊でもある。