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【書評】愛に溢れた虫の本『虫屋さんの百人一首』

こんなに昆虫愛に溢れた本は初めて。

虫屋さんの百人一種

虫屋さんの百人一種

  • 作者: NPO日本アンリファーブル会,奥本大三郎
  • 出版社/メーカー: 出版芸術社
  • 発売日: 2015/07/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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僕は昆虫に限らず生物を扱った本が好きだが、これは最近読んだ中で最高の一冊だった。

タイトルには百人一首とあるが、中身は昆虫の写真とその生態の解説、そして「虫屋さん」と呼ばれる虫好きの人たちが綴ったちょっとしたエッセイが中心。

本書でいう「虫屋さん」は、編者である「NPO日本アンリ・ファーブル会」に所属する、アマチュアの昆虫好きの人たち100人。
そんな人たちが、それぞれ自分が魅了された虫についてひとり1種類ずつ紹介しているので、タイトルが「百人一首」となっている。
すべて日本で観察できる昆虫で、虫屋さん自身の経験を基にした書かれたエッセイを読んでいるだけでも、充分面白い。

さらに本書の素晴らしい点は、虫たちの写真の美しさ。図鑑のような昆虫標本を真上から写した写真ではなく、昆虫が実際に木に止まっていたり葉の上を歩いている状態を接写した写真が使われているものが多い。
生き生きとしたそれぞれの昆虫の姿に、写真を眺めているだけでも飽きない。

子供たちの好きな、カブトムシやクワガタ各種、ギンヤンマ、ナナホシテントウなど、オーソドックスな昆虫たちはもちろん収録。クワガタは何種類も載っていいるうえ、ミヤマクワガタとオオクワガタとノコギリクワガタの見分け方の解説なんかも、イラストで載っていてわかりやすく面白い。

僕の好きな、アオスジアゲハ、ルリボシカミキリ、ハンミョウなど、少しレアでほかとは一線を画す美しさを持つ昆虫たちも、それぞれが生き生きとした図鑑とは違うアングルの写真で、その美しさを充分堪能できるのがうれしい。

もしも虫が平気だけど上記の昆虫たちのことを知らない場合は、ぜひ画像検索してみてほしい。その個性的で美しい色や姿に、こんな色彩を体に持つ生き物が日本の山野に存在するのかと驚かされると思う。

さらには、マイマイカブリ、ヘビトンボ、キカマキリモドキなど、ちょっとマイナーだけど生態を知れば知るほど味が出て面白い昆虫なんかも、それぞれの魅力を感じさせてくれるエッセイがあるので、本書で新たに興味がわく昆虫が増えるのも間違いない。
特にヘビトンボのエッセイは秀逸。思わず、『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』をKindleで購入してしまった。こういう形で知らなかった作品に出合うのもまた面白い。

ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹 (ハヤカワepi文庫)

ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹 (ハヤカワepi文庫)


本書全体に言えるのは、徹底した虫たちへの愛。100種類すべてに手抜きはなく、逆に100種類に厳選するのは大変だったのではないかとさえ思う。

100種類の虫たちは、巻頭から蝶類→トンボ類→甲虫類→バッタ類→水生昆虫類など、アイウエオ順とかではなく似たような種類順で収録されている。なので、ジャコウアゲハを見たいから目当てのページを探していると、カラスアゲハやアサギマダラなど、より魅力的な虫を見つけたりという、嬉しい発見を経験できたりもする。

本書のおかげで、気になる虫の種類がたくさん増えた。もし見かける機会があったら、もっとよく観察してみよう、何ならルリボシカミキリなんかは自分なりにベストのアングルで写真を撮ってみようかな、なんて気にもなった。

とりあえず、しばらくは本棚の最も手を伸ばしやすい位置に陣取る本になりそうだ。