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Under the roof

三児の父が育児、家事、読書のこととか書きます

【書評】事実は小説よりも遥かに面白い『奇妙な孤島の物語:私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島』

奇妙な孤島の物語:私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島

奇妙な孤島の物語:私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島


面白い本のタイプには、何種類かあると思う。

先が気になりすぎて一気読みしてしまう本、難解なので何度も戻りながら、調べながらだんだんとその世界に引き込まれるように読む本、そして、深くゆっくり、読めば読むほど味が出て、一気に読み終えるのが惜しいと感じる本。

本書はまさに、その「一気に読み終えるのが惜しい」の極みのような本。

本を開くと、左側のページ一面に地図。青い海と、その中央にぽつんと描かれた島。
右側のページには、中央にその島の名前と簡単な歴史、最寄りの陸地までの距離、無人か有人か、どの国の領土なのか等のデータ。そして上下にその島にまつわるエピソード。
とてもシンプルで、それでいて宝の地図を手にした時のような高揚感を感じるデザイン。無駄がなくて美しい。

タイトル通り、本書はこの構図で50の「孤島」を紹介している。

その中には、日本の硫黄島もある。ほかにもモアイで有名なイースター島。ただ、日本人にとって馴染みがあるのはその2つくらい。
あと、生物好きの僕は毎年1億2千万匹の赤いカニに埋め尽くされる「クリスマス島」は知っていた。が、ほとんどの島はよほどの地理マニアでもない限り知らないものばかりだと思う。

「クリスマス島」のページにはまさに赤いカニたちの事が書かれており、毎年11月になると繁殖期を迎えた「クリスマスアカガニ」というカニが島の道という道を覆い尽くす。
普段は山や森林で暮らしているカニ達が、産卵のため一斉に海を目指すからだ。有人島で、道路も整備されているため、自動車に轢かれて命を落とすカニが毎年無数に出るというのは知っていたが、本書ではさらに人間によって持ち込まれてしまった外来種のアリによって、ターゲットとなったカニが集団で襲われて命を落とすエピソードが綴られる。
島とカニとアリという、自然と生き物たちの話であるのに、本書のデザインと突き放したような文章により、無機質で無情な悲しい物語の一節のように感じられる。

そう、本書の魅力は、全体に漂うその物悲しさ。

本書を読み始め、いちばん最初に出てくる島の名前が「孤独」。北極海に浮かぶロシア領の無人島で、ノルウェー語の島名を日本語に直訳すると「孤独」となる。
北極海に浮かぶ「孤独」という名の無人島。「最果て」という言葉がぴったりで、このシチュエーションだけで短編小説が書けそうだ。
実際のエピソードも、恐竜の頸椎が発見されたり、打ち捨てられた旧ソビエトの観測基地が、年間平均気温氷点下16度という極限の気象条件下に晒されているなど、最果ての孤独にふさわしいものばかりだ。

「島独特の文化の奇妙さ」を最も感じたのは、太平洋、ソロモン諸島のティコピア島。この島には1200人が暮らしているが、島内の食糧事情は、それ以上の人口を支えられない。サイクロンなどで農作物が壊滅的ダメージを受けると、島民の多くが『さっさと死ぬことを選ぶ』。
若い女は、首を吊るか、沖に向かって泳ぐ。父親たちは息子を連れて、カヌーで沖に出てそれっきり戻らない。陸地で食糧不足に苦しみ飢え死にするよりも、外海で死んだほうがいいと考えるからだ。

一見すると島の怖い「ならわし」の話に感じるが、本書の雰囲気により物悲しさや寂しさを強く感じる。
ノンフィクションなのに、どこか空想の産物のような話。むしろこれが真実かなんてどうでもよくて、その特質性、非現実性を感じるために何度も読み、その様子を想像してしまう。読書の醍醐味のひとつである、想像の余地をふんだんに残してくれている本でもある。

ほかにも、<8日病>という、赤ん坊が生後8日ほどでほとんど死んでしまう島、かの有名なナポレオン1世が最後を迎えた流刑地として有名な「セントヘレナ島」、リアル宝島として、ひとりの男の人生を宝探しのため16年も奪ったが結局一握りの金貨程度しか見つからなかった島、18世紀に発見されていながらも、島の周囲が断崖に囲まれているため、発見から100年後に派遣された調査隊が上陸できず文字通り「未踏の地」のままとなった島。

すべての島のエピソードが、現実と空想の間を漂っているようなものばかり。本書から得られる情報はごくごく限られたものであるので、そこからグーグルマップやWikipediaでより詳しく調べてみるのもいいだろうし、そのまま空想に任せるだけでも面白く、心地いい。

読書に、想像の広がりを求める人に強くお勧めしたい。