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【書評】確かに全て裏切られたミステリー『その女アレックス』

 

その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)

 

 

流石『このミス!』1位。


小説読むならミステリーよりSF派の僕でも、見事に引き込まれてしまった。

 

前述のとおり、僕は普段SFばかり読んでいて、あまりミステリーは読まないんだが、『このミステリーがすごい!』とかで評判がいい奴は個人的にハズれたことがないので、数か月に1冊とか気が向いたときに読むようにしている。

 

で、本書は『このミステリーがすごい!2015』で海外編1位となった作品。
海外ミステリで初の6冠達成とか、本書きっかけで作者のピエール・ルメートルの同シリーズミステリが翻訳出版されて、本屋さんでずっと平積み状態で売られていたりと、とにかく中身以外の前評判だけでも凄まじい作品。

 

帯にも『あなたの予想はすべて裏切られる!』なんて感じでどんでん返しがあるよというのを猛アピール。
『どんでん返しがすごい映画10選』並みの「見る前からそんなこと言っちゃって大丈夫なの?」感。上がりまくったハードルをどう越えさせてくれるのか期待しながら読んだ。

 

ネタバレなしで簡単にあらすじを言うと、タイトルにもなっている女「アレックス」が突如、見知らぬ男に監禁され、監禁による追い込み、そしてアレックスの脱出のための視点と、その監禁事件を捜査するもう一人の主人公である刑事「カミーユ」の視点で事件を追っていく視点との、ふたつの視点が交互に入れ替わりながら進んでいくスタイル。

 

伊坂幸太郎の『グラスホッパー』みたいに、同じ時間軸上で場面が交互に入れ替わりながら進んでいくので、テンポがあって単純に読み物として飽きさせない工夫がされてるなと感じる。

で、結果的に見事に翻弄されてしまった。

 

どんでん返しが待っているミステリーの面白さ、醍醐味は、文字通り「小説側の仕掛け」によって読者が見ていた先とは逆の位置に着地させられる感覚を味わうことにある。

 

このミス!で取り上げられ、本屋でも平積みされてたくさんの人に読まれた本書は、急激に売れた作品にありがちな批判的意見も多い。
Amazonレビューなんかはその最たるもので、細かな描写や、結末によってもたらされた感情、果ては作者の人格批判まで、様々な批判的意見があり、レビューを読む限りはその気持ちもなんとなくわかる。

 

ただ、本書の醍醐味は、読み手のレベルによるところもあるが、上がりに上がったハードルをきちんと乗り越えてくれるところだ。


ミステリーを読むからには、結末で期待を裏切られる、予想外のことが起こるとこそが単純な醍醐味だと僕は思っている。

 

登場人物の思惑や欲望の錯綜を感じたいならケン・フォレットの『大聖堂』あたりを読んだ方がいいし、自己啓発に繋げたいならパウロ・コエーリョ『アルケミスト』が最高峰だと思うし、小説を読むことそのものに喜びを感じたいならヴァージニア・ウルフ『灯台へ』を読むべきだ。


でも、あえてこんな評判になっているミステリーを読むなら、ミステリーの専売特許である「裏切られ感」を堪能してほしいし、現に本書はそのミステリーの醍醐味に飲み込まれるための小説と言っても過言ではないと思う。

 

だから、作者の人格を否定するなら、そんなぶっ飛んだ思考のできる人だからこそ書けた最高のミステリーだと思うし、僕には細かな粗探しをする気もない。


読書なんて所詮は暇つぶし、というのが僕の基本思考なので、魅力的な登場人物たちによって物語の世界に引きずり込まれ、結果的に手のひらの上で踊らされてしまったなの読後に感じたという事実こそが、本書を読んでよかったと思える確たる証拠でもある。

 

ミステリー好きなら間違いなくハマってしまうと思うので、一気に読める環境を用意してから読むことをオススメする、そんな最高のミステリー小説。