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Under the roof

三児の父が育児、家事、読書のこととか書きます

【書評】『「イスラム国」の内部へ:悪夢の10日間』

 

「イスラム国」の内部へ:悪夢の10日間

「イスラム国」の内部へ:悪夢の10日間

 

 

一時期よりもかなり国内での報道は落ち着いた感がある。が、今でもISに関する報道はテレビ、新聞、インターネット上に流れ、その大部分は「襲撃」「戦闘」「空爆」「死亡」といった文字が躍っている。ISと西側諸国との戦争状態に関する報道がほとんどで、たまに目にするIS側の声明発表もプロパガンダがほとんど。過激な内容が多く、いったいISはなぜこのような主張を繰り返し、西側諸国との争いを続けているのか、という深い部分は自力で調べないと見えてこない。

 

本書は、そのISにジャーナリストとして渡り、自らを国家と称するISの先頭にかかわる人だけでなく、ISが実質的に支配しているシリアやイラクの街に暮らす人々へ10日間にわたり取材をした筆者のルポだ。ISとはいったいどんな組織で、ISを構成している人たちはどんな思想を持っているのかが、リアルな人の声として伝わってくる。

 

ISに侵入取材を試みたジャーナリストの多くは、IS戦闘員に見つかれば拘束され、身代金請求や処刑の対象となってきた。だが、本書の著者であるトーデンヘーファーは世界で初めて、IS側から取材の許可をもらい、ISの戦闘員と一緒にIS内を周るという条件付きではあるが、自由に取材、報道をする権利を得た。このISを報道する権利を得て、ISに侵入するまでの部分だけでも相当な努力を要している。トーデンヘーファーが特別に許可された理由のひとつに、アルカイダやアサド政権の重要人物に会い取材をした経験があり、それについての著作も多数発行されていることから、IS側が「この人物ならば西側諸国に寄り添ったような偏向した報道にならないだろう」といいう、一種の信頼から交付された取材許可だった。

 

じっさい、このルポを読んでみると、トーデンヘーファーの取材は「相手の言い分に穴や矛盾があれば、そこには必ず突っ込む」というスタンスを崩さない。だからと言って自分の主張こそが正しいと思っているわけではなく、ISに対しても西側諸国に対しても中立的な視点を持ちつつ、矛盾点には突っ込むという姿勢を一貫させている。取材にあたってはコーランの内容にも熟知したうえでの取材をしており、テロによって多数の虐殺をおこなうISに対し、コーランにある「一人を殺せば、それは人類全体を殺したことと変わらない」という一節を用い、なぜコーランに反した行いをするのかと鋭く反論している。

 

このトーデンヘーファーの取材スタンスは、IS内を案内する立場の戦闘員たちと激しく議論を繰り返す結果となり、取材中に何度もISの案内役たちとの関係が険悪になっていく。特に目を見張るのが「ジハーディ・ジョン」と呼ばれる、ISの発信する処刑映像に何度も登場するIS内でも最も有名なテロリストとのやり取りだ。何故かトーデンヘーファーたちの移動のための運転手役をやっており、取材方法に対して何度も激高し口論となる。覆面をしているうえに、名乗ったりはしないためにおそらく「ジハーディ・ジョン」なのだろうという憶測のもとのやり取りだが、それでも多数の処刑ビデオに登場する人物が著者らに高圧的で敵対心むき出しの言葉をぶつけてくる様は何とも背筋が凍るような思いがする。

 

そんな制限のある中での取材ではあるが、200万人規模の街であるイラクのモースルではある程度自由に取材をすることができ、戦闘にかかわらない一般的な市民たちの暮らしぶりを見ることができる。ISの運営のもとにあるISの「警察官」たちが街の警護に当たり、病院では医療を受けることができる。


また、ISの支配地域内では「ジズヤ」という税金を払えば、通常の市民と同じく自由に生活することもできるという。キリスト教徒やほかの宗教徒もジズヤさえ払えば慈悲のもとに生活ができる。取材を受けた医師や市民たちは口々に「ISが来てよくなった」と言うが、それについての真意は果たしてどうかわからないし、著者が深く突っ込むこともしない。

 

ISの戦闘員の国籍は様々で、著者らの案内役を務めたアブー・カターダは生まれも育ちも著者と同じドイツだ。イスラーム圏にルーツがない人たちでも、ISの思想に共感し、戦闘員としてさまざまな国から人が流入している。ISの思想の根底には、アッラーの教えこそが絶対だというものがあり、それを守らないシーア派のイスラーム教徒たちは改宗しなければ殺されても仕方ないとさえ言う。それに対し著者は、一貫して「コーランのどこに、そんな無慈悲な行いを許すと書いてあるのだ」ということを訴える。

 

イスラームだというだけで差別を受け、不当な扱いを受けたという海外ニュースを目にすることは多いが、我々はそもそもイスラームのイメージをISに引かれすぎている部分があると思う。本書によりISを知ることにより、イスラームの本来のあり方、コーランの慈悲深さも知ることができた。巻末にあるトーデンヘーファーの公開書簡は、ISの問題点だけではなく、戦争や大量虐殺が繰り返されるイスラームと西側諸国との問題点さえ浮き彫りにしている。

 

ISにそれほど興味のなかった僕でも、緊張感の連続になるルポに思わず一気読みしてしまった。IS、ひいてはイスラームとは何かについて知りたければ、是非一読してほしい一冊。