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Under the roof

三児の父が育児、家事、読書のこととか書きます

涙、家族、無償の愛のSF短編集『紙の動物園』

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)


近所の書店で平積みになっていて、気になって仕方なかったので読んでみた。

印象的なタイトル。ハードカバーじゃなくてペーパーバックなので、どことなく海外っぽさも出てる。

どうやら以前ピースの又吉がアッコにお任せで紹介したことがあるらしく、ネット上でも話題になってたみたいだ。

作者のケン・リュウは、中国生まれで幼少期にアメリカへ渡り、ハーバード卒で弁護士、プログラマー、翻訳家として働きながら執筆。「紙の動物園」で史上初ネビュラ賞ヒューゴー賞世界幻想文学大賞の短編部門3冠。とんでもないな。

ネビュラとヒューゴーって聞いたので、どんなハードSFだろうと構えながら読んだんだが、全然違った。ネビュラ賞ってハードSFが受賞するやつじゃなかったんだなと知る。

表題作「紙の動物園」と2本目の「もののあはれ」を読んだ時点で、涙が止まらなかった。一緒にリビングにいた妻に「何泣いてんの?」と咎められる。どの短編もものすごく感傷的だ。
正直、序盤の短編はSF要素があんまり濃くはない。ネヴィル・シュートの「渚にて」やコーマック・マッカーシーの「ザ・ロード」のように、シチュエーションとしてのSFを巧みに利用しているのが感じられる。だからこそ、登場人物たちの感情の揺らぎがダイレクトに伝わってきた。特に、子を持つ親としての目線で読むと、無償の愛情があるがゆえに生まれる悲しみが強く感じられ、妻に見られてるのに涙が止められなかった。

さらに共通しているのは、中国や日本などのアジアの思想を根底に持つ作品が多く、日本人なら共感して読めるものが多いというところ。「もののあはれ」でガッチリ心を掴まれ、さらに揺さぶられて涙が出てきたのもそのせいだ。

後半に進むと、「波」や「良い狩りを」のような感動だけじゃない虚無感や喪失感、スケールの大きさのを感じる作品が並び、作者の引き出しの多さにも驚く。しかし全作品とも深層部は共通したテーマが感じられるので、多彩であるのに統一感もあるという「素晴らしい音楽アルバム」のような作品だ。

垣根の高くない、万人におススメできるSF。今後の作品も楽しみだ。