Under the roof

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【書評】メメント・モリ『なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか:人間の心に巣くう虫』

 

なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか :  人間の心の芯に巣くう虫

なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか : 人間の心の芯に巣くう虫

  • 作者: シェルドン・ソロモン,ジェフ・グリーンバーグ,トム・ピジンスキー,大田直子
  • 出版社/メーカー: インターシフト
  • 発売日: 2017/02/15
  • メディア: 単行本
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タイトルだけ見ると、人生における数々の「選択」の場面においてなぜ保守的な方を選びやすいのか、について書かれた心理学的な本かと思っていたが、全然違ってなおかつ面白かったので驚いた。

 

「メメント・モリ(memento mori)」という言葉がある。ラテン語で「自分がいつか死ぬことを忘れるな」という意味。
様々な意味の捉え方がされるが、死を忘れないということは、すなわち人の行動に様々な影響を与えることになる。

 

絶対に死なず、時間が無限にあるならば、どれだけダラダラ過ごそうがそれは自由になるだろう。人間には限りある時間があるからこそ、時間を無駄にしないよう行動し、進学、就職、起業、結婚などの人生の岐路については時間をかけて頭を悩ませる。

 

いまこうしてなんとなく過ごしている日々にも、死の影は確実に付きまとい、決断や選択について影響を与えている。本書は、そんな「死」が人生において以下に影響を与えてくるかということについて、様々な視点から考察した一冊だ。

 

子どものころ、死ぬことが怖いと考えたことがあるだろうか。おそらく、あると答える人が大多数だろう。そして、子どもは死を何よりも恐ろしいものと考える。

 

生まれたばかりの頃は当然、思考も未熟なので考えもしなかったことが、自意識の芽生えとともに一丁前に「死が怖い」と考えだすわけだ。

 

死の恐怖は、大人になると和らぐというわけではない。
そのことについて、本書では「恐怖管理理論」というもので説明している。
人間は生きていくうえで、自分は社会にとって有意義で、価値ある存在であるという感覚が重要であり、それによって生まれる「自尊心」こそが心の奥底に潜む「死への恐怖」を食い止めるカギとなるのだ。
これは一つの防衛本能ともいえ、自尊心は心と身体の両方にとって恐怖や痛みを和らげる力となる。

 

また、この「自尊心」を満たすために、人は「文化的世界」を築いてきた。

 

死を意識する、自分はいずれ死ぬと悟る動物は、人間しかいない。人間は知能が発達したからこそ、死の恐怖に付きまとわれることとなった。死という終りが待っていると知っているなら、自暴自棄となり文化や科学などかなぐり捨てて原始的な生活を送っていた方がマシだ、なんて風潮が世界を支配したっておかしくない。

 

だが、人間は死をも宗教や芸術といったものを創造することにより、恐怖を乗り越え自尊心を保つための世界を作り上げてきた。想像の世界に逃げることにより恐怖を断ち切り、人間社会を構築してきたのだ。

 

アルベール・カミュは、「死を受け入れよう、そのあとならどんなことでも明確だ」と言った。
死ぬことは恐ろしいことだが、だからこそ人間は勇気と思いやりと将来世代への気遣いに溢れた、崇高な存在になれたともいえる。


本書は、死すべき運命にある人生をよりうまく生き抜くための助けになる、ひとつの道しるべになってくれそうだ。