【書評】SF+ミステリー+疾走感『ここから先は何もない』
エンタメ小説として一級品。
完成度云々じゃなくて、ミステリー色の高いSF設定の謎が、疾走感あるストーリーの展開とともに解けていく様は面白くて止まらなくなる。ボリュームはあるが、あっという間にストレスなく読み切れてしまう、まさにジェットコースター小説。
日本が打ち上げた小惑星探査機は、火星近郊の小惑星『ジェネシス』にてサンプル回収するはずが、なぜか別の小惑星『パンドラ』へ着陸。そして回収したサンプルから発見されたのは、なんと『エルヴィス』と名付けられた化石人骨だった。なぜ、探査機は別の小惑星へと目標を変え、しかもその小惑星には人骨が埋まっていたのか…
めちゃくちゃワクワクするプロットだけど、なんか既視感。
そう、あとがきでも作者自身がジェイムズ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』について言及しており、この小説は作者が『星を継ぐもの』に不満を持っていて、それを自分なりに解消するために書きあげたとしている。
- 作者: ジェイムズ・P・ホーガン,池央耿
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1980/05/23
- メディア: 文庫
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なるほど、確かにスケールの大きさと謎を回収していく様は『星を継ぐもの』に近い展開。だけど、登場人物たちの突っ走っていくスピード感は『星を継ぐもの』とは違う感覚で、これも既視感。
宇宙と最新テクノロジーとスペシャリスト集団の戦いって点では藤井太洋『オービタル・クラウド』の疾走感に近い。こちらも一級のエンタメ小説なのでおススメ。
『星を継ぐもの』は、ラストの余韻が素晴らしい、人間賛歌に近い素晴らしい結末と読後感を抱いたけれど、本書はそのラストとはあえて逆を行ったような結末となっている。作者の言う、『星を継ぐもの』への不満について、あとがきでははっきり記されてはいないのだが、おそらくはこの「人類のこれから」こそが作者の不満だったのかなと感じた。