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【書評】「仕事のため」「家庭のため」に罪悪感があるすべての人へ。『仕事と家庭は両立できない?:「女性が輝く社会」のウソとホント』

 

仕事と家庭は両立できない?:「女性が輝く社会」のウソとホント

仕事と家庭は両立できない?:「女性が輝く社会」のウソとホント

  • 作者: アン=マリー・スローター,篠田真貴子(解説),関美和
  • 出版社/メーカー: エヌティティ出版
  • 発売日: 2017/07/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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こういった「仕事と家庭の両立」について書かれている本は無数にある。本書の冒頭で特に言及されているものに、Facebookのシェリル・サンドバーグCEOが著した『LEAN IN 女性、仕事、リーダーへの意欲』という本がある。

『LEAN IN』では、女性は職場で男性に遠慮している、もっと勇気とやる気を出せば、仕事と家庭の両立はできる。組織のトップに立つ女性が少ないのは、女性たちがもっと頑張らないからだ!という内容で、瞬く間に全米ベストセラーとなった。

 

そんなベストセラーの内容を顧みたうえで、本書の著者であるアン=マリー・スローターは「そうは言っても、仕事も家庭も完璧に両立するなんてやっぱり無理。そしてそれは女性だけの問題ではない。男性だってそのことについて悩んでいるし、むしろ仕事と家庭の両立については男女とか関係なく、全員が同じ目線で仕事と家庭のバランスを考えるべきだ」と強く訴えている。本書のポイントはここだ。

 

そもそも「仕事」と「家庭」でどちらを取るか、ということも考えさせられる。

 

著者のケースだと、10代の息子が2人いる、という状況で、トップ中のトップのエリートコースを諦めて家庭を選択している。

 

だからと言って、こんなエリートコースを諦めているのだから、家庭を顧みずに仕事を選択するのはバカげてると考えるのは早計だ。

 

著者はそれでも大学教授という安定した職業に復帰しており、何より夫も大学教授で収入面などに不安があるようにはお世辞にも見えない。こんな一握りのエリートから比べたらショボい仕事に就いている僕でも、仕事を捨てて家庭を取る、という選択をして収入を減らす結果になるのであればそれは受け入れられるものではない。凡人からすれば最低限の収入があってこそそれなりの家庭を築けるのであって、収入が無いのに豊かな家庭を築きたいというのは前提が間違っている。

 

問題は「収入」と「労働時間」と「家庭のために使える時間」のバランスが取れているかどうかということだ。

 

その誰もが望むバランスのとれた生活を、低賃金や長時間労働によって阻まれてしまっているのが問題なのだ。誰だって定時で帰って、苦しくない生活レベルを維持して、暖かい家庭を築きたい。それが普通とされてきたのに、今やその普通が夢のまた夢。幻想になってしまっている。

仕事に求められるものは多くなり、賃金は上がらず、子育てには金と時間がかかる。限られた手札の中で勝負するには何かを削らなければならないことがほとんどだ。

 

「職場では男が優遇されやすい」「家庭には母親が必要」「女性も出世のために頑張って仕事すべき」などといった考えを一度ぶち壊す必要がある、というのが本書のスタンスであり、新しいところでもある。もちろんこういった考え方が社会に浸透してしまっているので、それを個人の力で同行するのは難しい。だが、日本における働き方改革を含めて徐々に考え方が変わりつつあるのも事実だ。

 

だからこそ、自分たちの固定観念を一度消去して、こうでなければならない、こうあるべきだという幻想に囚われずに、無理なものは無理ということを認めて、限られた手札で勝負するための最適解を見つけることが大切ということでもある。

 

現に僕自身、職場において年齢的にも仕事の質が求められるようになってきたが、家庭と、さらには僕自身のキャパシティ、僕にかかるストレスなどの複数の要素を考えると、仕事において今以上に重い内容を持つことにためらいがある。だが、周囲の同年代が職場からの期待に応える形で様々な仕事をこなしているのを横目に見る焦りもある。

 

ここで「焦るな」というのは無理な話だ。だが、それでも自分の気持ちを整理して何が重要かの優劣をつけ、それに従ってなるべく後悔のない選択をしていく。それこそが、これからのワークライフバランスに求められるものになっていくのではないだろうか。