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Under the roof

三児の父が育児、家事、読書のこととか書きます

【書評】奇跡は理由があって起きている『「偶然」の統計学』

「偶然」の統計学

「偶然」の統計学


「レスター優勝は、ネッシー発見と同じレベル」というネットニュースを先日見た。

プレミアリーグで優勝した、日本代表FW岡崎選手が所属していることでも有名なレスター・シティ。昇格・降格を繰り返し、残留すれば御の字だった弱小クラブの優勝には、ネッシーの存在が証明された場合と同じ5001倍のオッズが付けられていたそうだ。

言ってみれば「ありえない」こと。おそらくレスターのサポーターや選手本人たちさえ本気で信じていなかったレベルの話だろう。だが、それは実際に起きて一大センセーショナルを巻き起こした。まさに奇跡。

そういった「ありえない」とか「奇跡だ」とされることを、統計と確率を用いて「なぜ起きたのか」を詳しく解きほどいていこうというのが本書である。
ちなみに本書はレスター優勝前に発刊されているので、レスターのことは全く書いていないが、サッカー繋がりで2010年の南アフリカワールドカップで有名になった「タコのパウル君」については言及されている。ほかにも偶然や確率に関する面白いエピソードが多数あるので、読み物としても面白い。
中学生の数学レベルの知識でもついていけて、なおかつ統計・確率についていくつものステップを踏んで深く掘り下げていくので、偶然というものの追及に対する奥深さを感じることもできる。

著者は、奇跡が起きることの説明として「ありえなさの原理」というのを用いている。
これは、「不可避の法則」「超大数の法則」「選択の法則」「確率てこの法則」「近いは同じ法則」の5つから成り立っており、奇跡やありえないことが起きる背景には必ずこの5つの法則が複雑に絡み合って起きている。
この5つの法則をそれぞれ章ごとに詳しく掘り下げ、なぜありえないようなことが起こり得るのかを解き明かす。
逆に言えば、奇跡だとかありえないとか言って我々が驚くのは、これらの「ありえなさの原理」によって非常に低い確率のことでも起こり得るということを我々が理解していないからこそ、驚いてしまうということにほかならない。

例えば「不可避の法則」。
これをレスター優勝に当てはめれば、プレミアリーグに参加しているチームすべてに優勝の確率はわずかずつではあるが確実に存在しているので、結果的にレスターが優勝することもありえる結果のひとつではあった。
テロや暴動などでプレミアリーグ自体が優勝チームなしという結果に終わる可能性や、最下位のチーム以外の八百長が発覚して突如最下位だったチームが繰り上げ優勝になる可能性だって、ごくごくわずかながら存在はしている。
それらすべての可能性を含め、何かしらの結末は迎える。どんなにありえなかろうが、奇跡的であろうが結果は待っているというのが「不可避の法則」だ。
ゴルフのティーショットを打ってホールインワンになるのも、隣のコースに飛んでそこでゴルフをプレーしていた人の頭に当たるのも、突如現れたアホウドリがゴルフボールを咥えて飛び去ろうと、どんなに珍しいことでも、どれかは必ず起こる。
「起こりうるすべての結果を一覧にしたなら、そのうちのどれかが必ず起こる」これこそが「不可避の法則」である。

言われてみれば当たり前じゃんと思うことばかりではあるが、我々の脳は統計・確率という数値的な情報より、自分自身の感覚を優先しがちだ。
コインを10回投げて10回とも表だったなら、その次に10回投げるときには裏のほうが多く出そうな「気がする」。だが、実際は次の10回も表と裏の出る確率は1/2のままだ。
ギャンブラーなんかは「確率は1/2に収束するはずだから、最初に10回続けて表が出れば次の10回は裏の確率が高いはず」と誤認してしまいがちだが、そうではない。最初に10回表が出た後の10回のコイン投げで裏が多めに出て「埋め合わされる」のではなく、コインを投げた回数の合計が大きくなるにつれて確率は1/2に近づいていき「影響が薄まる」のである。

こういった、直観に反した理論を詳しく紐解き、さらには人間の思考についても結び付けて掘り下げてくれる本書は、単純に読み物としても面白い。
自分がこれから体験する「偶然」にも、理由があり、「ありえなさの原理」の表れであるということが、本書のおかげで「頭で理解できる」ようになることが増えるだろう。