Under the roof

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【書評】目に見えない、微生物の力を見せる本『土と内臓』

 

土と内臓 (微生物がつくる世界)

土と内臓 (微生物がつくる世界)

 

 

みなさんは、内臓の健康を保つために気をつけていることってあるだろうか?

 

うちの子供たちは、毎朝ヨーグルトを1つ食べ、ヤクルトを1本飲むことから朝をスタートさせている。どちらも、腸内環境を整え、便秘やその他胃腸系の病気にならないようにという親の願いからだ。

 

我々の体の中、特に胃や腸の中には、無数の細菌やウイルスなどの微生物が生息している。この微生物たちの働きにより、人間は体に様々な反応をきたす。これは単純に腸内に乳酸菌が足りないから便秘になった、などといった簡単な反応ではなく、もっと複雑で多様な仕組みによってそれに沿った反応を体に引き起こす。腸内にいる微生物たちは、免疫反応、炎症の程度、その他の生理的状況をあらゆる方向に変えてしまうことができる。

 

微生物からすると、人間の身体はひとつの街ように多様な微生物が共生している空間といえる。本書においては「生きている丈夫な格子垣が”裏返しになったもの”」と表現している。この中に無数の微生物が存在し、また成長もしている。人間の細胞のひとつひとつに少なくとも三個の細菌細胞が潜んでいるそうだ。
極端な話、人間はすべて、別の生物の生態系の寄せ集めとも言える。そして、我々の体にかかわるのは微生物そのものだけではなく、微生物それぞれの遺伝子がかかわってくる。多様な微生物が持つ、さらに多様な遺伝子のおかげで、人間は免疫、消化、神経系の健康に重要な何十種類もの必須栄養を吸収できるようになっている。

 

この人間における腸と微生物のかかわりは、植物における根と土壌中の微生物のかかわりに非常によく似ている。必要な栄養を吸収するだけでなく、周りの微生物を介して健康維持や免疫の獲得のために重要な物質のやり取りを行うからだ。
本書のタイトルである『土と内臓』とは、「植物の根と人間の腸(特に大腸)は、ともに微生物という共通の要素により健康を維持している」という、見た目では到底繋がりそうのない根・腸・微生物についてさまざまな研究の歴史や著者自らの経験をもとに「ひとつながりのもの」としての本質を暴き出すための象徴と言える。土と内臓は、微生物で健康が維持されるという点で「同じ」というわけだ。

 

本書では、著者である夫婦が庭のガーデニングにおいて土壌の状態を回復させるために試した様々な方法から始まり、なぜ土に有機物を含ませると土壌がよくなるのかという疑問から様々な学問について多様な視点で掘り下げるようにして知識を繋げていく。土壌中の微生物のバランスを取ることにより成功を収めるようになった農業の歴史を始め、コッホやパスツールに代表される微生物と病気の関わりの歴史である病理学や医学、細菌の遺伝子の進化の速度に関わる進化生物学など、様々な視点により微生物について明かされてきた歴史を学ぶこともできる。これらの微生物の歴史を繋ぎ合わせることにより、なぜ『土と内臓』が共通の「微生物」というキーワードで繋がるかが見えてくるのだが、これはとてもとても遠い旅路を経ての繋がりだ。

 

微生物という目には見えないものに焦点を当てることにより、植物と人間両方の健康についての秘密を暴き出す。本書を読めば、「細菌=病気をもたらす厄介な存在」といった誤ったイメージをいつの間にか持ってしまっていたことを認め、目には見えないからこそ微生物が我々にとって重要な役割を果たしているということが「見えてくる」はずだ。細菌と病気と植物学と生物学をひとつなぎのものとして学べる、とても素晴らしい一冊だった。