タイトルに「珍」ってあるけど、中身はいたって真面目。「珍」は面白いとかくだらないって意味ではなくて、「めずらしい」に読み替えていいかも。
例えば、本書のイントロダクションで紹介される、「チキン砲」
18メートルもの砲身を誇り、重さ1.8キロの鶏肉を時速650キロというとんでもない速さで発射するこの大砲は、「バードストライク」と呼ばれる、年間およそ3,000回も起こるとされるジェット機と鳥類の衝突事故を再現されるために作られた。
バードストライクによる被害総額は年間5千万ドルから8千万ドルに及ぶと言われ、さらに数年に一度くらいの頻度で搭乗者の命も奪われている。時速650キロで飛び出す鶏肉は、そんなバードストライクによる被害を軽減するための研究に重要な役割を担っているわけだ。
で、本書で登場する兵器じみたものはこのチキン砲くらいだ。それ以外には、戦場で兵士の安全を確保するため、そして、戦場から帰ってきた兵士の生活を平穏なものに戻すための研究が紹介される。
例えば、爆弾搭載車両の人員を守るための研究。通常の自動車は、事故に合うと前や横からの衝撃を受けるが、地雷等による真下からの衝撃を受けるということはない。車両が浮き上がるような爆発の衝撃により、首の骨が折れたり脳や内臓が上方に引っ張られて受けるダメージについては、戦闘用車両独自の研究が必要となるわけだ。
そこで使われるのが、なんと本物の人間の死体だという。そういう実験のためのドナーとして登録する制度もあり、登録者も大勢いるというのだから驚きだ。お国のために命を賭している兵士たちのために、自分の死体を使ってください…という考えのもとだろうけど、日本では馴染みのないことなのでなかなか想像できない世界だ。
ほかにも、爆発音等で聴覚を失う兵士が多いので、爆発音から聴覚を守るための研究、海に不時着した時にサメから身を守るための研究、傷口に寄生してくるウジ虫やハエに対処するための研究など、普通の科学的な研究からちょっと視点のズレたものがたくさん出てくる。どれもこれも、兵士の安全を確保するためにはとても重要なことなので「なるほど、そりゃ大切だ」と思わせる説得力が凄い。
ちょっと不思議な科学本として、自分の知らない分野を見ることができる面白い一冊だった。