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【書評】カモノハシのスペックと歴史『カモノハシの博物誌~ふしぎな哺乳類の進化と発見の物語』

 

カモノハシの博物誌~ふしぎな哺乳類の進化と発見の物語 (生物ミステリー)

カモノハシの博物誌~ふしぎな哺乳類の進化と発見の物語 (生物ミステリー)

  • 作者:浅原 正和
  • 発売日: 2020/07/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

皆さんご存じ、カモノハシ。
でも、実際はカモノハシについてどれくらいのことを知っているだろうか。

変わった見た目、哺乳類なのに卵を産む、オーストラリアに生息、あたりが基本中の基本情報だろうか。そして、哺乳類・鳥類・は虫類といった生物の分類上の「例外」として扱われる存在でもある。

カモノハシっていう名前も覚えやすいし、「哺乳類なのに、卵」という例外のパターンも覚えやすい。見た目もどことなく愛らしいので、「自分はカモノハシが嫌いで見るのも嫌だ!」なんて人にも会ったことはない。

だけど、その生態についてどこまで知っているか?というと、意外と研究の進んでいない生物なのだそうだ。カモノハシ自体はとてもデリケートな生物で、オーストラリア以外での飼育というのはされておらず、現地でしか観察ができないらしい。

そのうえ、関係書籍の数も少なく、学術的な専門書を除くとオーストラリアにも数冊程度というレベルらしい。

というわけで、日本のカモノハシ研究者である著者による、カモノハシ愛に溢れた本書。冒頭では当然、カモノハシの生態について全身の図を用いて、部位毎にわかりやすく、かつ詳細に解説してくれる。

ある程度かいつまんで紹介すると、まず、「哺乳類なのに卵を産む」という点。生物学に興味のある人なら哺乳類他のに卵を産むのはカモノハシのほかにハリモグラがいて、それらを「単孔類」という分類をされることも知っているだろう。

特徴的な大きなくちばしをもっているが、これは鳥類のくちばしのように堅くはなく、触るとぶよぶよしているそうだ。本書では「犬などの鼻の黒い部分が、口の周りまで広がったものと捉えると、より正確かもしれない」と表記している。

くちばしの中には骨が通っており、電気信号を感じる鋭敏な感覚器官を備えている。エレクトロレセプターと呼ばれる(カッコイイ…)この器官は、水中で目をつむったままでも獲物を発見し、捕らえるために利用される。

哺乳類なので、子どもを母乳で育てるのだが、カモノハシの腹部には乳首がなく腹の皮膚から母乳がじんわりと吹き出してくるそうだ。

平べったくてビーバーのものと同じような尻尾には、ラクダのこぶのように脂肪を蓄えることができ、健康状態のバロメーターにもなるらしい。

オスの後ろ足のかかとには「けづめ」と呼ばれる毒腺に繋がった爪がある。そう、哺乳類なのに毒持ち。これって結構有名な要素ではあるけど、じゃあ何で毒を持ってるの?毒の強さってどんなもんなの?ってことに関する解説って今まで見たことなかったので、それについてとても面白く読むことができた。

とまあ、単孔類!エレクトロレセプター!、毒腺!と、かわいらしい見た目にそぐわない、ゲームキャラなら玄人向けの特殊能力を搭載したようなスペックを持っている。本書には著者が自ら描いたかわいらしいイラスト添えで詳しく解説されており、この部分だけでも十分すぎるボリュームがある。

個人的に特定の生物を扱った生物本は、その生き物に詳しくなるだけでなく、その生物に対する著者の愛を感じることも醍醐味だと思って読んでいるので、そういう意味では本書はとにかく最初から最後まで愛に満たされている。

こういった愛に溢れる生物学本の例に漏れず、カモノハシの生態だけでなくカモノハシと人類との関わり、カモノハシ研究の歴史、そして著者とカモノハシの出会い、研究記録というフルコース。生物学好きなら是非。