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【書評】究極の超個体『ハキリアリ 農業を営む奇跡の生物』

ハキリアリ 農業を営む奇跡の生物 (飛鳥新社ポピュラーサイエンス)

ハキリアリ 農業を営む奇跡の生物 (飛鳥新社ポピュラーサイエンス)

  • 作者: バート・ヘルドブラー,エドワード・O・ウィルソン,梶山あゆみ
  • 出版社/メーカー: 飛鳥新社
  • 発売日: 2012/04/19
  • メディア: 単行本
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なにはともあれ、まずは「ハキリアリ」をご存じだろうか。

たまにTVの生き物番組なんかでもネタにされるので、ご存知のかたもそれなりに多いとは思う。

ハキリアリは、その名の通り葉っぱを切るアリだ。葉っぱを切ってどうするのかというと、巣に持ち帰り、菌糸を植え付けてキノコを栽培し、それを食べて生きていく。
つまり、ハキリアリは自分で農業を営み、食料を調達して生きているわけだ。

アリは、ハキリアリに限らず日本にいるアリも女王アリを中心に集団で生活している。

アリやハチなどの集団生活をする虫を「真社会性の」昆虫と呼び、約90万種に及ぶ昆虫の中で真社会性の昆虫は2パーセントほどしかいないらしい。

そんな、集団生活を営む生き物が、共同で農業を営み生きていくなんて、ちょっとSFチックな話に思えてくる。
そんなハキリアリの生態を、様々な視点から解説してくれるのが本書。

ハキリアリが栽培する菌はどんなものか、葉はどうやって切るのか、葉を運ぶアリと巣の中で作業するアリとの分業の仕組み、ハキリアリの巣、ハキリアリの一生…ハキリアリの情報が、大量の写真付きでわかりやすく簡潔に説明されている。

そして、本書で何よりも驚かされるのは、蟻を始めとする「真社会性の」昆虫は、一匹一匹の存在はアリであってアリでない。大事なのは、アリたちが暮らす「コロニー」全体を一匹の生き物と捉えて初めて、単独性の動物一匹と同等と考えるということ。
アリのコロニーを「超個体」と呼び、コロニーごとのまとまった行動を一個の生物の行動と捉える考え方だ。

女王アリや働きアリそれぞれを一匹の生き物とカウントせず、女王アリは生殖器官、そして働きアリは女王の手足であり、女王を助ける脳、心臓、腸であり、その他様々な気管でもある。

確かに、生物の本能は「子孫を残す」ということが根底にあるはずであり、アリは働きアリだけでは子孫を残せない。
女王アリを守り、コロニーを繁栄させていくことによって結果、新たな女王を生み出して新たなコロニーが形成されていくのが、子孫を残すための行動と考えれば、コロニー単位で超個体と呼び「一匹」にカウントするのも納得がいく。

そして、ハキリアリはそんな「超個体」としてコロニーを繁栄させることに関しては、信じ難いほど複雑で面白い社会構造を持っている。

究極の「超個体」と呼んで差し支えないハキリアリの魅力を、わかりやすく手軽に味わえる一冊。生き物好きの方ならハマるのは間違いない。