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【書評】我々の自然観を作り上げた人物『フンボルトの冒険 -自然という〈生命の網〉の発明』

 

フンボルトの冒険 自然という〈生命の網〉の発明

フンボルトの冒険 自然という〈生命の網〉の発明

 

 

凄かった。読み終えるのに3週間もかかってしまったが、あまりの面白さに噛みしめるように読んだ。

 

フンボルトについて書かれたノンフィクション。著者の膨大な取材データを元に書かれており、情報量が半端ではない。

そもそも、フンボルトとはなんぞやと。

フンボルトといえば、フンボルトペンギン。恥ずかしながら僕自身その程度の知識しかなかった。

だが、フンボルトとは『アレクサンダー・フォン・フンボルト』と言う名の科学者であり、18世紀当時の世界においてナポレオンに次ぐ有名人と目され、進化論で有名なチャールズ・ダーウィンへ多大な影響を与えた人物である。これだけでも、おお、面白そうと興味が湧いてくる。

 

と同時に、ちょっとした疑問。フンボルトは、なぜダーウィンをはじめとする他の科学者に比べ、ちょっと知名度が落ちて僕らもよく知らないんだろうか、と。

 

実際、英語圏でもフンボルトの名前はほぼ忘れ去られているらしい。
その理由のひとつとして、フンボルトが残した功績は「新大陸の発見」や「物理法則の発見」といったわかりやすいものではなく、今日我々が当たり前に学んでいる科学を、わかりやすく理解できるようにした点であるからだ。1869年にボストンで行われたフンボルト生誕百年祭で、ある人物が聴衆に向けて「欧州の児童向けの教科書や地図で、フンボルトのアイデアに負わないものはひとつとしてない」と述べた。
フンボルトの自然観はその後の科学というものすべてに染み込んでいる。彼のアイデアがあまりに広く知られるようになったために、それを生み出した当人は忘れ去られてしまったのだ。

 

そんなフンボルトについて、本書は膨大な取材データをベースに事細かに生い立ちについて描写している。驚くべきことに、著者はフンボルトが1802年に訪れてその後の彼の研究に多大な影響を与えた、南米エクアドルのチンボラソ山へも実際に訪れ、取材したというのだ。『ニューヨーク・タイムズ』紙など多くのメディアにベストブックとして選ばれたのも頷ける。

 

フンボルトはこの南米チンボラソ山に32歳で登り、眼前に広がる山脈を見下ろした時に世界をこれまでと違った目で見るようになった。地球は大きな1個の生き物で、すべては互いにつながっているという、大胆で新しい自然観だ。『生命の網』と名付けられたこの自然観は、現代の私たちが自然や科学を理解するうえでベースとなっているものであり、いまだに大きな影響を与えている。

 

もちろん、この考え方は当時の科学者にも多大な影響を与え、ダーウィンはフンボルトの著書を読んだことにより、かの有名なビーグル号での航海に出て、進化論を見出すこととなる。

 

ほかにも、ゲーテ、アメリカ大統領ジェファーソン、南米独立の父であるボリバルなど、様々な人物に影響を与えた。フンボルトの存在があったからこそ、化学だけでなく、民主化や奴隷解放まで後世に多大な影響が残ったのだ。

 

読み終えると、外へ出て直接世界を眺め、触れなきゃと感じる。フンボルト自身が、とにかく世界中を駆け回り、直接触れ、時には自分自身の肉体を実験台にまでしていた。とんでもない探究心だ。

 

フンボルトというひとりの人物を中心に、18世紀という時代が移り変わっていくことを眺められる一冊。