Under the roof

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【書評】珠玉の面白ノンフィクション『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』

 

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

 

 

最高。なんだろうこれ。


生物関連の科学本で知見が広がり、かつ「鳥類学者」という珍しい職業の実態について綴られた社会学的ノンフィクションであり、それでいてふんだんにボケが散りばめられた珠玉の面白エッセイ集でもある。


ありえない組み合わせのようで、絶妙な割合でブレンドされていて最高に面白い。

 

単純に鳥類学者とはなんたるやとか、鳥類の生態はどうなっているとかいった内容も充分面白いのだが、本書の核は著者が実際に調査地に赴いて行うフィールドワークの様子がたまらなく面白い。

 

主に小笠原諸島で調査をしているという著者。生物の調査なので、居住区域ではなく山林部、場合によっては無人島へ調査に向かうことも多い。小型の船舶ですら近付くことができず、島の近くでゴムボートに乗り換えて近付き、さらにいったん海に降りないと上陸することすらできない無人島へ、重装備の機材を抱えながら調査チームで乗り込んでいく様は下手な小説よりもスリリングで面白い。

 

臨場感たっぷりに調査の様子が綴られているだけでも充分面白い生物学ノンフィクションなのだが、本書のポイントはその文章に畳みかけるように笑いの要素を混ぜ込んでくる、著者の高すぎる執筆力だ。

 

調査序盤の隊員の様子を綴った一節では、海辺で大波をかぶった際に眼鏡をさらわれてしまいやむなく昼夜問わず度つきのサングラスをかけざるを得なくなって、夜間に暗い暗いと嘆く隊員や、その横で海に鋭い視線を向ける隊員もやはり眼鏡を失ったので単に鋭い視線ではなく目を細めているだけだったとか、その近くではヘルメットにトランクス一枚というシュールそのものの出で立ちで調査をしている隊員など、イヤなんか普通に楽しそうで羨ましいと思ってしまうボケまみれのシチュエーションに、ただただ笑って読み進めることしかできない。

 

鳥類学者が書いた生物学のノンフィクションというカテゴリーに間違いはないのだが、その中でこんなに面白い本には出合ったことがない。


先に述べた小笠原諸島の現地調査の様子や、在来種保護のための外来種駆除、野生動物や森永チョコボールのキョロちゃんの生態について、果てはただプライベートで酔っぱらって公園の入り口のチェーンに足を引っ掛けて盛大に転んで出血したエピソードなど、範囲の広すぎる様々な話を、科学や胡散臭い非科学や下ネタやジョジョネタなどのこれまた広範囲のボケで無限に拡散してくる。


圧倒的な文章力。パターンが多すぎてただただ圧倒されて笑い続けるだけ。もう、最高。著者天才すぎだろこれ。

 

鳥に興味がなくても、科学に興味がなくても、とりあえず面白い本が読みたいと思ったら手に取って間違いない。だってこれそういうカテゴリーとか関係なく面白いから。今のところ今年最高のノンフィクション本でした。