Under the roof

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【書評】怒りが娯楽と化した現代への処方箋『「許せない」がやめられない SNSで蔓延する「#怒りの快楽」依存症』

 


本書は主にTwitterで見られる「怒り」に焦点を合わせており、異様に渦巻く怒りや歪んだ正義がいかにして発生しているかを解説してくれる本だ。

こういったネット上の怒りの奔流は今に始まったことではなく、ご存じのとおり2ちゃんの時代から歪んだ正義と怒りは確実に存在していた。だが、その頃はインターネットにどっぷりつかった人たちの世界だったため、世間一般への浸透は少なかっただけだろう。それが今や一大コンテンツとして、娯楽の一角を担うまでになっている。

僕自身、怒りをわめき散らした掲示板やまとめサイトをわざわざ自分からチェックしに行き、一方的な正義に身を置いて愉悦を感じる、ということをしていた時期もある。日韓ワールドカップ以降の嫌韓の流れや、民主党政権叩きなどが大きなコンテンツだった頃だ。「ネトウヨ」という言葉が一般に浸透したのもこの頃だろう。

それが、今やスマホとTwitterによって、いつどこでも誰でも簡単に「ネット上の怒り」を目にすることができるようになった。怒りのエネルギーに触れることが、とても手軽な娯楽のひとつになってしまっている。

本書の冒頭で著者がまず説明しているように、怒りは気持ちよくてやめられない中毒性がある。怒りの矛先に向かって匿名で攻撃を向けられるTwitterは、気持ちよく正義を振りかざすために最適化されたツールとも言える。許せない存在に向かって、同じくTwitterなどで収集した情報を元に「ネットで得た正義」を叩き込む。そしてそれが様々な方法で拡散・賛同されれば、そこから得られる気持ちよさによってますますやめられなくなっていく。

こうした怒りと歪んだ正義の正体を、さまざまにカテゴライズして言語化し解説してくれるのが本書だ。これを読むと、得体の知れなかったSNS上の怒りの裏にあるエネルギーの正体が掴める。正直あまり関わりたくないので、今Twitter上でそういった怒りを目しないように上手く避けている人でも、こういった問題がいかにして発生しているかというSNSの今を知ることができる。だからこそどうしていけばいいというヒントにもなるだろう。

特にジェンダー関連の知識がなくても、本書では基本から解説してくれているので、一読の価値ありだと思います。